研究課題/領域番号 |
16K14366
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
足立 裕司 神戸大学, 工学研究科, 名誉教授 (60116184)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ゴシック・リヴァイヴァル / アーツ・アンド・クラフツ運動 / 武田五一 / 日本近代建築思潮 / J.コンドル / 伊東忠太 / ドメスティック・リヴァイヴァル / アール・ヌーヴォー |
研究実績の概要 |
本研究は、これまで代表者が行ってきた武田五一の研究を通じ、イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動の日本への影響について考察する必要が生じてきたことを機縁としている。本研究はその展開として、アーツ・アンド・クラフツ運動の源泉であり、思想的にも関連の深い英国のゴシック・リヴァイヴァル運動の日本の建築界への潜在的な影響を検討しようとするものである。今年度はその思想を持ち込んだと考えられるJ.コンドルとその教え子達の受容の様を計るために東京大学建築図書室所蔵の英文卒業論文に着目し、資料の収集とその解読を中心に進める予定であったが、現在、当該資料がフォーマットを変更しているために、資料の全体的な収集が困難となったために、重点的な解読とそれぞれの論文の思想的構造の解明を中心に考察してきた。 その結果、初期卒業生の卒業論文にはイギリスのゴシック・リヴァイヴァリズムに共通した着目点と論理展開がみられるが、徐々に建築学の個別分野の工学的研究へと移行していくために、初期の卒業生に特徴であった論理構成が失われていくことが明らかとなった。しかし、次世代に属する伊東忠太の卒業論文『建築哲学』において、ラスキンやヴィオレ・ル・デュクへの関心が復活し、武田五一等の理論との共通性を指摘することができたと思われる。 上記作業と並行して行ってきた外国文献の精査から、卒業論文で参照されたと推定される原著書の検討とそれぞれの著書の内容を比較検討することにより、ゴシック・リヴァイヴァルの間接的な影響関係についての検討も客観性をもつようになったと思われる。 今後、進捗報告に記した研究計画のうち、東京大学の資料公開を待ちながら、1.の作業を補完しつつ、3.と4.の段階へと研究を進めていく目処がついたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は次の4段階を踏まえている。1,2は初年度から行い、次年度は1年目を踏まえて 3,4の項目へと展開する。 1.東京帝国大学初期卒業生の卒業論文の考察:資料公開の事情により、東京大学が所蔵する建築学科卒業論文のうち、J.コンドルの影響下にあったと考えられる辰野金吾、片山東熊、曾禰達蔵ら初期卒業生の概略の検討は行うことができたが、4~5回卒業生以降の分析については遅れている。今後、資料の公開を待ちながら、明治30年頃までの卒業論文を検討し、全体的な思潮の変化を考察する。 2.コンドルがもたらした文献と参考文献の分析:卒業論文を作成するに当たってコンドルが参考書として指示した文献を検討し、卒業論文の構成との比較検討を行ってきた。その結果、イギリスのゴシック・リヴァイバルと関係の深い、フランスのヴィオレ・ル・デュクも視野に入れ、その後日本で読まれた可能性の高い文献も検討する必要があることが明らかになった。当初予定していたW.バージェス、A. ローゼンガルテン以外にJ.ラスキンなど当時東京帝国大学に所蔵されていた文献調査とその内容の精査を行うことが重要となった。本項目については、ゴシック・リヴァイバルの建物の実態を合わせて知る必要があるので、海外調査を行い19世紀におけるゴシック・リヴァイバル建築の実態を確認した。 次年度については下記の項目を予定しているが、上記の1および2の項目は不足しているので継続して研究する必要がある。さらに3.後世の建築論との比較検討、4.帝室議事堂の設計に係わる様式論争にみられる建築思想の分析、へと研究を展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は1.東京帝国大学初期卒業生の卒業論文の考察、およびを2.コンドルがもたらした文献と参考文献の分析、を継続して行う必要があり、今年度は3,4の項目へと展開する。 1.については資料のフォーマットの変換が終われば公開されるので、東京大学が所蔵する建築学科卒業論文のうち、4~5回卒業生以降の分析に行い、合わせて第二世代が登場する明治20年代以降まで検討の範囲とする。昨年度の検討と合わせて、全体的な思潮の変化を考察する。 2.については、本年度の成果をもとに、当時東京帝国大学に所蔵されていた文献調査とその内容の精査を行いながら、海外調査による文献調査と収集を行い、当時の世界的な思潮をできるだけ正確に分析する。 さらに展開として、3.後世の建築論との比較検討:日本の建築的伝統を再評価しだした第二世代の建築家達と、コンドルの影響を受けた第一世代にみられるナショナリズムとの比較、建築作品としての比較を通じて、日本におけるゴシック・リヴァイバルの影響について検討を行い、総括として上記の分析を具体的な議院建築という課題を通して日本の様式論争とイギリスで1世紀前に行われた様式論争との異同を明らかにする。日本のナショナリズムの発露となった帝室議事堂の各段階での設計案と各建築家の主張を分析しながら、ゴシック・リヴァイヴァルの思潮の影響を明らかにする。 上記の目的の総合として、広く世界に影響を及ぼしたアーツ・アンド・クラフツ運動の活動について、それら二次的な活動の日本への影響についても再考証を行い、日本の近代建築史の深化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の中心的な作業は東京大学保存資料の解読にあるが、東京大学図書室で一昨年から行われている資料整理に伴い、一時的に資料公開が遅れている。そのために、準備作業が遅延しており、国内旅費の執行が少なくなり、合わせて海外の研究者の招聘も見送ったために繰り越しが生じている。また、同様の理由から、資料複写の費用が下回ったと考えられる。 この他、海外での文献購入費用の多くは私費で賄ったことにより物品費が下回っている。
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次年度使用額の使用計画 |
東京大学の資料公開を期して補完の作業を再開し、前年度に予定していた計画を実施することにより予定通り執行できると考えている。
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