日本近代建築史上で看過されてきた英国のゴシック・リヴァイヴァリズムの影響について、工部大学校の初期卒業生たちの卒業論文を読み解くことによって明らかにすることを目的とし、その端緒を得ることができた。版権上、英文の卒業論文のすべてを入手することはできなかったが、第一回卒業生である辰野金吾、曾禰達蔵、片山東熊らの論文を概観し、その論理構成、使用されている概念を子細に検討し、国家、国民性、伝統、歴史、慣習、気候・風土、素材、工法等について英国のゴシック・リヴァイヴァリズムとの比較を行った。その結果として両者の論理構成、概念に密接な関係性を確認することができた。また、その他の初期卒業生たちの卒業設計における様式の検討も併せて行い、ゴシック・リヴァイヴァルの影響がみられる初期卒業生の様式選択が、徐々に時代が下るにしたがってクラシシズムを採用する傾向が強まることが明らかになった。こうした現象の背景には日本の近代建築の礎を築いたJ. Conderの影響、その指導理念が当初は強く反映していること、しかしながらその影響は徐々に薄れていったと考えられる。また、作品に比べると建築理念については、当時の卒業生自身に自覚がなく、歴史的にも看過されてきたと考えられる。 日本近代建築の初期に内的に共有化されていた建築理念は、時代を経て武田五一ら第二世代の建築家たちによって自国の建築理念、建築様式の模索が始まると、再び顕在化してくるようになる。また、建築の課題としての住宅の近代化、自国の様式創造という、いわば英国のゴシック・リヴァイヴァルが追及してきた課題と同様の状況が日本の近代建築家たちが直面するようになると、これまで潜在的に形成されていた建築理念が援用されるようになったのではないかという推察ができるようになったと思われる。この点については、今後さらなる研究の展開として進めていく予定である。
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