研究課題/領域番号 |
16K14370
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
梅津 理恵 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (60422086)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ハーフメタル型電子状態 / ホイスラー合金 / 原子配列 / 磁気モーメント / 粉末中性子回折 |
研究実績の概要 |
ホイスラー合金とは、一般的にはX2YZ(X,Y:遷移金属元素、Z:半金属・半導体元素)の化学式で表される3種の元素から構成される一連の物質群で、形状記憶合金、メタ磁性形状記憶合金、熱電材料等、数多くの機能性材料が知られている。近年、3種の遷移金属元素(X,X`,Y)とZの計4種の元素から構成される物質においても、ハーフメタル型やスピンギャップレス半導体型電子状態を示す物質が理論計算より数多く報告され、スピントロニクスの分野で格好の研究対象となりつつある。本研究では、非常に特異な電子状態を有していると、理論の立場から期待されている4元系ホイスラー合金(XX`YZ)の実験的研究を行い、結晶構造や原子配列、相安定性、磁気特性、および電子状態の検証を行うことを最終目的とし、新しいスピントロニクス向け応用材料を探索することを計画している。2015年10月の現在において、理論的に電子状態が予測されている物質は約60種類にも及ぶのに対し、実験的にその存在が確認されているのは、たった7種類である。また、実験的研究に着手されてからまだ間もないことから、詳細な原子配列、電子状態の実験的検証等の重要な基礎研究はまだ一切行われていない。このように、現時点において4元系ホイスラー合金に関する研究は理論研究が大きく先行していることから、相状態の確認や電子状態の検証等を含め、バルクの実験研究を始めることは非常に重要であり、理論計算通りの特異な電子状態を有することが確認されればスピントロニクス向け材料として、もしくは新しい機能性材料としての可能性が大いに期待され、この分野の研究において新しいトレンドを築くであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、CoVMnAlとCrTiVAlの2種の4元系合金の多結晶試料を作製し、基本的な性質を調べた。CoVMnAlについて示差走査型熱量(DSC)測定を行ったところ、約1270 Kに規則-不規則相変態温度と見なされる変化が観測された。その温度の直上①1323 Kと、②十分に低い温度である873 Kにて熱処理を行い、それぞれの温度から急冷して得た試料のX線回折測定を行ったところ、111で指数つけられる超格子反射強度に明瞭な違いが観られた。それぞれの試料について磁化測定を行ったところ、①の試料の5 Kにおける自発磁化は4.2 emu/g, ②のそれは1.2 emu/g、キュリー温度はそれぞれ48 K, 11 Kであることから、どちらも磁化の小さな強磁性体であるが、原子の規則配列の違いによって磁性が影響を受けていることが分かった。これらの試料について中性子粉末回折測定を室温にて行い、X線回折測定の結果と合わせて解析したところ、CoとMnが完全に不規則配列をするL21型構造を示すことが明らかになった。今までの理論計算では、Co, V, Mn,およびAlがそれぞれ異なるサイトに完全に規則化した、LiMgPdSn型規則構造が平衡状態であると考えられていたが、実際に得られた試料の原子配列はそれとは異なっていることが明らかになった。 次に、CrTiVAl多結晶試料も作製した。DSC測定において約1190 Kに2次の相変態に伴う変化が観られた。5 Kにて測定した磁化曲線は完全に直線を示し、磁化は温度上昇に伴い増加することから、反強磁性を示すことが示唆されるが、試料振動型磁化測定装置の上限温度を超えているため、1190 Kの変態がネール温度に起因するのか、規則ー不規則相変態に因る変化であるのかは現時点においては分からない。今後、中性子粉末回折測定を行い、詳細を調べることを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に主に研究を行ったCoVMnAlの4元系合金では、中性子回折測定により規則型構造の原子配列が見事に明らかになった。これは新しい知見であることから、国際会議で発表し、論文執筆の準備を進めていく。また、作製したCrTiVAl合金の磁気構造を明らかにするために、粉末中性子回折測定を行い、解析を行うことを計画している。示差走査型熱量(DSC)測定において観測される1190 Kのピークが規則ー不規則相変態に因るのか、もしくは磁気変態に伴う変化であるのかを明らかにする予定である。比較試料として、前年度に作製することを計画していた、CrTiVGaの試料作製も試みる。 新しく取り掛かる合金系としてはFeTiCrAlもしくはFeTiVrGaに着目している。これは、Fe, Cr, Tiの3d電子数が2個づつ異なっているため、化学的な相互作用を考える場合に都合がよいと思われる。いわば、Co, V, Mnの関係と同様な状況にあり、CoVMnAlの原子配列と価電子数との関連性を比較して議論を行うのに適している。また、Fe元素を含んでいることから、現在、起ち上げを行っているメスバウワー測定の装置を使って磁気特性を評価することも可能となる。また、メスバウワー測定を行うことにより、Feの占有サイトに関する情報も得られることから、より詳細な原子配列の決定を行うことが出来るであろう。 一方で、ハーフメタル型電子状態を検証するために磁化の圧力依存性を調べることが有効的であろうと考えていたが、前年度はその測定に取り掛かるには至らなかったので、本年度は作製した試料を用いて磁化の圧力効果を系統的に調べることも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度にCrTiVAlの試料に続き、CrTiVGaの試料を作製するためにGa元素の購入を考えていたが、CrTiVAlの中性子粉末回折測定の結果より、本合金が反強磁性体を示す、という非常に興味深い結果が示唆され、解析に磁気反射を考慮する必要が生じ、より詳細な解析が必要となった。よって計画を一部変更し、CrTiVGaの試料作製は次年度に行うことにしたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
Ga元素の購入とGaを含有した試料作製は次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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