研究実績の概要 |
本年度は当初計画に入れていなかったPb-Bi-Te系で実験を進めた。現在までに約40種の系で3次元トポロジカル絶縁体の形成が報告されているが、転位状態が形成し得るトポロジカル指数をもつものは限られており、当初計画のBi-Sb系以外ではPb-Bi-Te系がほぼ唯一の系である。Bi-Sb系にとどまらず、この系でも実験を行うことは有意義である。本系においては転位伝導の測定に先立って、バルクの絶縁性の高い試料を作製することがまず必要とされる。この目的で、Biの一部をSbで置換した一連の試料Pd-(Bi(1-x),Sb(x))-Te を作製した。ここで0<x<1である。xの全領域でトポロジカル絶縁体相が作製できた。ここで試料はブリッジマン法を用いて作製し、X線ラウエ法、粉末X線回折法、EPMA法により良質の試料が得られたことを確認した。作製した試料から数mmサイズの薄片を切り出し、電気伝導測定を2-300Kの温度範囲で行った。キャリアタイプはx=0でn、x=1.0でpである。一連の試料に対する測定によりx=0.8付近でn-p転換が起こることが示された。この組成付近で組成を細かく振ることにより、2Kで0.2μΩcmの電気抵抗率をもつ高絶縁性試料の作製に成功した。また磁気抵抗の測定データが、弱反局在・弱局在理論でよく説明できることを示した。この成果をPhysical Review Materials誌に発表した。さらに上記一連の試料に対し、熱伝導度(κ)、ゼーベック係数(S)の測定を行い、電気伝導度(σ)の測定結果と合わせてZT値の評価を行った。ここで、Z=(σS2/κ)である。 x=0.2-0.5でκ<1W/mkの極めて低い熱伝導度が生ずることがわかった。またSの絶対値はx=0からxの増加に伴って一旦上昇し、x=0.3付近から減少に転ずることがわかった。それらの結果を反映して、x=0.2付近で0.3程度の高いZTが得られた。
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