研究課題/領域番号 |
16K14378
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木口 賢紀 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (70311660)
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研究分担者 |
白石 貴久 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (50758399)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ジルコニア / ハフニア / 直方晶 / 弾性場 / 準安定相 / 単斜晶 / ドメイン構造 / 強誘電性 |
研究実績の概要 |
近年、非鉛かつ非ペロブスカイト型構造の新奇強誘電体材料であるHfO2基超薄膜材料が注目されており、中心対称性を有さない準安定相である直方晶相(Pbc21)に属していると考えられている。本研究では、イオンビームスパッタ法を利用した固相エピタキシー法により堆積したZr0.5Hf0.5O2非晶質薄膜の熱処理条件を検討することによって、これまで作製できていなかったZr0.5Hf0.5O2薄膜のエピタキシャル成長の実現に挑み、結晶相制御、結晶性の向上、微細組織などの強誘電性発現のための基礎学理となる知見を明らかにした。 イオンビームスパッタ法を用いて、Zr0.5Hf0.5O2非晶質薄膜をYSZ(001)単結晶基板上に室温で堆積後、赤外線加熱炉を用いてRTA法により酸素雰囲気下で行った。種々の熱処理条件で作製した薄膜のXRD解析より、薄膜において直方晶のピークが確認され、ZrをドープしたHfO2の直方晶を固相法で作製できた。そこで、薄膜の結晶性を評価するために直方晶のピークを明瞭に確認することができた薄膜の400/004ピークのロッキングカーブ測定から0.8°未満の半値全幅(FWHM)を得ることができた。熱処理温度が高いほどFWHMが減少し、結晶配向の完全性が向上したが、同時にXRDでは検出が困難であった単斜晶が共存することが分かった。また、XRD測定では、直方晶のa軸とc軸の格子定数が非常に近いため両者の膜厚方向への配向の区別が困難であったが、STEMを用いた観察によりa軸配向を主体とする数nmサイズの強誘電・強弾性ドメイン構造を形成していることや、数nm-10nmサイズの単斜晶相の存在が明らかになった。以上の結果から、これらの直方晶相ドメイン構造や単斜晶相の存在がXRDにおける配向の完全性を律速していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固相エピタキシー法を用いて直方晶相単相に近いエピタキシャル薄膜の作製に初めて成功すると共に、弾性的拘束と固溶の2つの効果によって単斜晶相への相変態を抑制可能であることを原子スケールで明らかにできた。また、直方晶相のドメイン構造・ドメイン境界構造、分極構造,単斜晶相の共存状態・相境界構造を原子分解能で解明できた。以上はエピタキシャル薄膜の作製に成功した本研究によりなしえたと言えることから。おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1.初年度の成果に基づいて熱膨張係数や格子ミスマッチの異なるYSZやCaF2基板上に種々のZr/Hf比のエピタキシャル薄膜を作製し薄膜中の歪み量を解析する。特に、ABF/HAADF-STEM法により、薄膜の原子分解能観察を行うと共に画像の幾何学的位相解析から全原子の変位場・分極構造を決定し、近接した斜方晶相(400),(004)面間隔を分離する。これらの解析から、弾性的拘束が残留歪み及びドメイン配向に及ぼす効果を定量的に調べる。また、STEM-EELS法による酸素の吸収端微細構造(ELNES)の変化から、弾性的拘束下での各原子の配位状態など局所構造を解析する。 2.電気特性評価のためには、既往の研究からYSZまたはCaF2基板上にエピタキシャル成長することが分かっているIn2O3-SnO2(ITO)を下部電極としてスパッタリング法でエピタキシャル成長させ、キャッピング層としてITO上部電極の順に固相エピタキシーにより堆積する。種々のZr/Hf組成、膜厚、歪み場の薄膜に対してP-Eヒステリシス特性を測定し、各組成に対して弾性的拘束や膜厚依存性より逆サイズ効果に関する知見を得る。また、組成に対する誘電率変化より強誘電性が期待されるHfO2側と反強誘電性が期待されるZrO2側との間に巨大誘電率を示す組成相境界(MPB)が発現可能性についても検証する。 3.XRD法で加熱その場測定を行い、正方晶相-斜方晶相-単斜晶相の間の相変態挙動を調べ、斜方相が安定に存在しうる温度域とキュリー温度を膜厚と組成を変数として調べ、相変態のダイナミクスの観点から単斜晶相への応力誘起変態抑制の指導原理を導く。以上から高温における分極状態の変化を見出す。 4.初年度に得られたHfO2-ZrO2固溶体薄膜の成果に基づいてMgO-ZrO2固溶体薄膜へ展開し、上記1-3の実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定のひずみ解析ソフトウエアが他の予算で導入されることになった。また、研究の進捗に伴って、試料の電子状態の計算を行うためのワークステーションの性能が不足することが分った。
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次年度使用額の使用計画 |
CPUのアップグレードを行い、欠陥構造に対する第一原理計算を実施することによって、相安定性や電子エネルギー損失分光スペクトルの解析を進める予定である。
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