研究課題/領域番号 |
16K14381
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
谷山 智康 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (10302960)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 磁性 / スピンエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、垂直磁化とスピン-格子結合を併せ持つマグノン伝播媒体においてマグノンの電界生成と伝播制御技術の礎を構築することを目的としている。初年度は下記の研究項目を実施した。 (1)垂直磁化膜におけるマグノンの生成を目的として、垂直磁化多層膜の作製手法の確立を目指した。具体的には、[Cu/Ni]多層膜をCu層膜厚9nm、Ni層膜厚2nmに固定し、層数を変化させた際の磁気異方性の変化を定量的に評価した。その結果、[Cu/Ni]の層数、5、10、20に対して、何れも垂直磁気異方性が観測され、それぞれに対して算出した垂直磁気異方性エネルギーが層数に伴い増大することが見出された。この層数の増加に伴う磁気異方性エネルギーの増大効果は、[Cu/Ni]界面の平坦性とそれに伴いNi層に面内引張歪みが有効に誘導された結果として理解される。また、同様に垂直磁気異方性を示すFePd規則合金薄膜の成膜手法について精査した結果、垂直磁気異方性を持つmazeドメインの形成を示す磁化過程が観測された。さらに、FePd規則合金薄膜の垂直磁気異方性は膜のモルフォロジーに大きく影響されることが明らかとなった。 (2)Coplanar waveguideとベクトルネットワークアナライザを併用することにより、(1)にて作製した[Cu/Ni]多層膜、FePd規則合金およびNi単層薄膜におけるマグノンの生成を試みた。その結果、垂直磁化膜に対してはマグノンの生成を観測することができなかった一方で、Ni単層薄膜においてはマグノンの生成を示す磁場に依存するS11パラメータの磁場変調効果を観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の垂直磁化多層膜/強誘電体ヘテロ構造とマグノンデバイスの作製手法が確立しており、また、垂直磁化膜として当初計画にはない規則合金垂直磁化膜の作製についても試み、垂直磁気異方性が生じる成膜条件を見出すことに成功しているため。
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今後の研究の推進方策 |
電界を用いてマグノンを生成する技術を確立し、さらに伝播速度の計測と位相制御技術の確立を目指す。本年度垂直磁化多層膜においてマグノン生成を確認できなかった要因としてcoplanar waveguideの設計によるマグノン生成強度の不十分さと強磁性体/絶縁酸化物界面による非磁性層の形成に伴うマグノン誘導磁場の不十分さを挙げることができる。これらの問題を克服することで垂直磁化膜におけるスピン波の生成と伝播計測を実証する。さらに、種々の磁場においてマグノン生成用、検出用coplanar waveguideの間隔を関数として伝播マグノン強度を定量化することで、マグノンの伝播速度を算出する。また、垂直磁化膜と強誘電体とのヘテロ構造において電界を用いたマグノン生成を実証する。以上により、本研究課題の目的の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
垂直磁化多層膜および垂直磁化規則合金におけるマグノンの生成および伝播の観測を目的として、さらに継続してマグノンデバイスの作製条件の精査、最適化を進める必要が出てきたため。
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次年度使用額の使用計画 |
垂直磁化膜/強誘電体ヘテロ構造を作製するための金属および基板材料、また磁気特性評価用のガス類等の購入を予定している。
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