研究課題/領域番号 |
16K14385
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
大幸 裕介 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70514404)
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研究分担者 |
町田 幸大 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (20553093)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イオン注入 / プロトン伝導 / ガラス / ゾルーゲル法 / イオン放出 |
研究実績の概要 |
材料中にイオンが注入されると、電気特性や化学的性質が著しく変化し、また近年では生細胞へのイオン注入による細胞の活化なども報告されている。一般にイオン注入は大型の加速器などを必要とし、また真空下で実施されることから水分を多く含む細胞・組織は真空下で失活する問題があった。電界は先鋭化先端に集中することから、電子銃と同様にイオン伝導性の高い電解質を先鋭化して電界印加することで、目的イオンの電界放出が可能であると着想した。以前の研究において、H+伝導性を示すガラスを溶融法で作製・先鋭化してエミッタとして利用することで、当該ガラスのTg点(~460℃)以上の温度かつ高真空中でのH+放出を実証した。本研究では室温の大気圧でH+注入可能な超小型イオン銃を作製して、生細胞等へのH+注入効果を調べることを目的とする。本年度は室温付近で高いH+伝導性を示す先鋭化ガラスをゾル-ゲル法を用いて作製した。先端の曲率半径は~60μm程度と見積もられ、平滑面と比較して電界強度は160倍程向上したと見積もられた。ガラスロッドの後端部にPt/C電極を燃料電池を参考に作製し、またPt/C電極近傍に水素ガス(4%H2-96%Ar)を供給して、引抜電極とPt/C電極間に高電界を印加した。数100 V/cm程度からH+放出に伴うイオン電流が観測され、また一定電圧で保持したところ1時間以上安定にイオン電流を観測した。Pt/C電極場でH2→2H+ + 2e-の反応が生じ、連続的にH+がガラスに供給されていることを実証した。またポリアニリンに対するイオン照射前後の構造変化をラマン分光法より調べ、H+付加反応が生じていることを確認した。ラマンマッピングの解析より、被照射範囲は~1mm2程度と見積もられた。またヨウ化銀系ガラスを用いてAg+イオン放出を同様に確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における実証すべき重要な技術要素は、室温・大気圧下での局所H+注入技術の確立である。そのためには室温付近で高いプロトン伝導性を示す材料を先鋭化して、電界放出しやすい構造を作製する必要がある。初年度にこの点について電解質の選定と形状制御を精力的に進めた結果、当初計画通りに室温・大気圧で~1 mm2の範囲にH+注入可能であることを実証した。ただし当該ガラスエミッターは水を吸着することで室温付近でも高いプロトン伝導性を発現することから、放出イオンはH+:H2Oと水分子を伴った形であると予想され、実際にどのような質量のイオンが放出されているか調べることは今後重要になる。
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今後の研究の推進方策 |
共同研究者と生体材料に対するH+照射と細胞接着性の関係、および細胞やタンパク質などへの直接H+注入の効果を検討する。また当初はH+イオンのみを扱う計画であったが、Ag+イオンも同様に放出され、Ag+イオンについては抗菌性に注目してAg+イオン注入効果についても調べる予定である。室温・大気圧での局所H+注入技術として幅広い応用が期待される。
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