研究課題
従来のペロブスカイト酸化物強誘電体では局所的な金属元素-酸素間の共有結合(二次ヤーン・テラー効果)が結晶構造の反転対称性の破れをもたらすが,研究代表者らは,菱面体晶ペロブスカイト型(ニオブ酸リチウム型)ScFeO3や層状ペロブスカイトNaYTiO4において,構成元素の共有結合に依存しない機構によって結晶構造の反転中心が消失することを示した.本研究では,強誘電体・圧電体の物質研究の新しいパラダイムの構築を念頭に,この原理を拡張する.具体的には,酸素八面体回転エンジニアリングにより新規強誘電体・圧電体の物質群を開拓し,特異な物性・機能創出を目指す.平成28年度は,高圧合成法によりニオブ酸リチウム型構造をもつ新物質InFeO3を得ることに成功した.この化合物には二次ヤーン・テラー活性イオンが含まれていないが,点電荷モデルならびに第一原理計算から評価された自発分極値は非常に大きい(約100μC/cm2).加えて,室温で弱強磁性が観察され,ネール温度は545 Kと高い.このため,高温でも動作可能なマルチフェロイック材料としての応用が期待される.これに並行して,層状ペロブスカイト酸化物Ruddlesden-Popper相に焦点を当て,第一原理格子動力学計算を用いて強誘電体の物質探索を行った.放射光X線・中性子回折を用いていくつかの系の構造解析をしたところ,酸素八面体回転に基づいて結晶構造の反転対称性が破れ,強誘電性・圧電性が発現することが実証された.
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、二次ヤーン・テラー効果に依存しない機構に基づく強誘電体・圧電体をいくつか見出すことができた.いずれも最終的な研究目的を達成するための重要な知見をもたらすものである.得られた成果の一部はすでに論文としてまとめており,アメリカ化学会の材料化学の専門誌Chemistry of Materialsに2報が掲載された.これまでの研究において,第一原理計算による物質探索・物質設計が非常に有効であることがわかり,研究の進展に大いに貢献している.また,国内および海外施設で測定した高精度な放射光X線・中性子回折データを使って,結晶構造を精密に同定することに成功している.強誘電体の評価装置も整備されつつあり,評価手法も向上した.今後,第一原理計算-構造解析-物性評価の有機的な連携により,新規な強誘電体・圧電体が発見される可能性は大いにある.
今年度は最終年度となることから,これまでに着実に成果の得られている研究をさらに加速させる.具体的には,放射光X線・中性子回折だけでなく,ナノスケール解析や分光法を駆使して精密構造を決定する.強誘電性の発現や強誘電相転移機構の解明だけでなく,磁性や可視光応答性の付与による高機能化を実現し,新しいタイプの強誘電体を得るための設計指針を得る.今年度の終了時点ではできるだけ多くの,また,質の高い論文をインパクトファクターの高い学術雑誌で公開することを目指して研究を進める.
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Chemistry of Materials
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http://dipole7.kuic.kyoto-u.ac.jp