従来のペロブスカイト酸化物強誘電体では局所的な金属元素-酸素間の共有結合(二次ヤーン・テラー効果)が結晶構造の反転対称性の破れをもたらすが,研究代表者らは,菱面体晶ペロブスカイト型(ニオブ酸リチウム型)ScFeO3やルドルスデン-ポッパー型層状ペロブスカイト相NaRTiO4(Rは希土類)において,構成元素の共有結合性に依存しない機構によって結晶構造の反転中心が消失することを示した.本研究では,強誘電体・圧電体の物質研究の新しいパラダイムの構築を念頭に,この原理を拡張する.具体的には,酸素八面体回転エンジニアリングにより新規強誘電体・圧電体の物質群を開拓し,特異な物性・機能創出を目指す. 平成29年度は,ルドルスデン-ポッパー型層状ペロブスカイト酸化物に焦点を当て,強誘電体の物質探索を行った.まず,第一原理計算により強誘電体の候補物質を選定し,固相反応によりそれらの多結晶体を合成した.次に,得られた試料に対して放射光X線回折,中性子回折,光第二高調波発生および強誘電ヒステリシスの測定を行った.これら計算と実験を組み合わせた研究を通じて,Sr3Zr2O7が新規強誘電体であることを発見した。具体的には,ZrO6八面体回転が結晶構造の反転対称性を破り,強誘電性の発現をもたらすことを見出した.また,放射光X線回折,中性子回折,光第二高調波発生の温度変化からSr3Zr2O7の強誘電相転移を同定し,ZrO6八面体回転がどのような機構で強誘電相を安定化するのかを明らかにした.この他にも,磁性イオンを含むある種のペロブスカイト関連層状酸化物において室温で強磁性(弱強磁性)と強誘電性が現れることを見出した.結晶構造に基づいた考察から,強磁性と強誘電性の発現に酸素八面体回転が関与していることが示唆された。
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