研究課題/領域番号 |
16K14389
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 幸生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (80581991)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 強誘電体 / チタン酸バリウム / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、強誘電体のナノ粒子を原子分解能STEMで観察して原子位置を同定することにより、粒子中の格子定数およびイオン分極の分布を直接観察ベースで解明することを試みる。原子位置を高精度で決定できる高分解能電子顕微鏡像では、一度に撮影できる視野の広さが10 nm四方程度に限定されるため、多数の視野から像を取得して粒子中全領域における構造解析を行う。 初年度は粒径が約50nmの市販のチタン酸バリウムナノ粒子を解析した。観察の結果、粒子内部では電子線入射方向の試料膜厚が50nm程度と厚く、高精度の原子位置解析が容易ではないことが電子顕微鏡像シミュレーションの結果と併せて明らかとなった。したがって、試料側面(表面)の多数視野から高分解能像を取得して原子位置を10pm以下の精度で解析した。 解析の結果、特に粒子表面でBaイオンの位置が正規の格子点位置から20pm以上外側に変位していることが明らかとなった。この傾向は(110)に近い方位を持つ面でより顕著であり、(100)に近い面では変位量が小さい傾向があったため、表面の面方位と関連がある可能性がある。Baイオンが大きく変位していた一方でTiイオンの変位は同等の大きさではなく、Baイオン(あるいはBaイオンとOイオン)のみが大きく外側に変位していることが明らかとなった。 結果として、粒子の最表面ではランダムな方向を向いた局所的な分極が発生している可能性が高く、粒子全体としての電気分極を低下させていることが示唆される。現在、これらの結果について、論文発表に向けてとりまとめを行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶性材料に対して、高分解能電子顕微鏡像から原子位置を10pm程度の精度で決定できる手法の構築はほぼ終了し、各種結晶性材料に適用可能な段階となった。また、多数視野での電子顕微鏡観察ならびに解析も可能となっているが、多数枚の画像を連続して解析させる手法については本年度に構築する必要がある。 一方で、実験的な側面としてナノ粒子が大きく電子線入射方向に構造の変化がある場合には、原子位置の解釈が単純ではなくなり、電子顕微鏡像のシミュレーションと比較することが必要となってくることも明らかとなった。例えば、4nm程度の表面層が30nm程度の内部層と重なって観察される場合には原子位置を示す輝点が楕円形に近づき、解析が容易ではなくなることが明らかとなった。これは計画時点では想定していなかった新たな知見ともいえる。 高分解能観察の結果明らかとなった、最表面におけるBaイオンの20pm以上の大きさの変位は従来、明瞭には観察されていなかった結果であり、強誘電体ナノ粒子の構造および特性の理解に進展をもたらす重要な結果となった。また、そのようなイオンの緩和挙動が表面の方位と関連があることも今回の研究で明らかとなった重要な知見となっている。 これらのように、一部課題を残してはいるが、研究計画は概ね順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は引き続きチタン酸バリウムナノ粒子の原子分解能解析を行う。前年度の結果を踏まえてより微小なナノ粒子の方が精密な解析を行うことが可能であることから、対象とする材料は水熱合成法で合成された粒径:30 nm, 17 nm, 8 nmの3種類のナノ粒子とする。 これらの試料に対して、低倍率での明視野、暗視野像観察からドメイン構造の有無にを明らかにするほか、原子位置解析を行い、格子定数ならびにイオン分極の粒子内での分布を明らかにする。3種類の試料の結果を比較することで、結晶構造と粒子サイズの相関性を明らかにする。また、これらの解析においてはシミュレーション像と比較しながら、原子位置の解釈をより明瞭にしながら実験を進める。 また、今年度は萌芽的な研究の一環として、同試料について高温でのその場観察を試みる。室温から徐々に温度を上げていく際の構造変化を観察することで、強誘電相から常誘電相へと結晶構造が変化するキュリー温度のサイズ依存性や昇温過程でのドメイン構造の変化ならびに高温における結晶構造の解析などを行い、強誘電体ナノ粒子の高温における構造および状態について明らかにする予定である。
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