本研究では、低温で熱を蓄え、高温では熱を急速に放散するような大きな熱伝導率変化を所望の温度で示す熱制御材料の探索を目的とし、構造相転移による可逆的な格子熱伝導率変化と、金属―絶縁体(M-I)転移によるやはり可逆的な電子熱伝導率変化を併発させることにより、可逆的で大幅な熱伝導率変化の達成を目指した。 200 ℃付近でM-I転移による導電率の急激な増大が報告されているTi2O3について、熱制御材料としての可能性を検討した。出発原料に化学量論比のTiとTiO2を用い、SPSにて反応焼結させることによって、単相かつ相対密度が約92%の比較的緻密なTi2O3試料を得た。この試料の熱伝導率は400℃から800℃にかけて0.69 W/m Kから2.49 W/m Kへと約3倍程度増大したが、導電率の温度依存性は大きなヒステリシス挙動を示し、原因は内部の微細なクラックが開閉するメカニカルな変化にあると推定された。in situ 高温SEM観察により、温度上昇とともに粒界が閉じる様子をその場観察でき、昇降温に伴う粒界・クラックの機械的な変化を確認できた。そこで出発原料に微粒化したTi2O3を用い、さらに焼結時の温度プログラムを最適化することにより、相対密度約97%の緻密なTi2O3焼結体試料を得ることに成功し、導電率のヒステリシスも解消できた。熱伝導率は400 ℃から800 ℃の間で0.69→2.49 W/m Kと3.6倍、800℃で7時間保持した後は3.23 W/m Kに達し、4.7倍の増大が得られ、熱制御材料として有望であることを見出した。熱伝導率変化に要する温度幅や時間幅はまだ広いものの、当初の予想以上の結果が得られた。構造相転移とM-I転移を併発させるという当初の目標は実現していないが、M-I転移の寄与のみで所望の結果が得られる可能性が示唆される。
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