研究代表者は、ジルコニウム(Zr)イオン照射を施したサファイヤ(Al2O3)基板にスピネル型構造を有する準安定γ-Al2O3相が形成され、熱処理に伴いコランダム→スピネル構造相変態が誘起されることを見出した。昨年度は、この相変態が起こる温度領域の探索を行った。その際、熱処理温度が高くなると、過飽和に含まれるZrがZrO2として析出することが確認された。このZrO2は安定相とは異なる構造を有していたが、構造の同定には至っていなかった。本年度は、ZrO2準安定相の構造を高分解能像観察およびナノビーム電子回折を用いて行った。その結果、ZrO2析出物は、高圧下で形成する準安定相の斜方晶I型ZrO2であることが明らかとなり、長時間の熱処理でも安定に存在することが確認された。斜方晶I型ZrO2には、空間群がPbca、Pbcm、Pca21の3種類が報告されている。我々の試料では、Pbcaの空間群を有する斜方晶I型ZrO2が多数存在していたが、PbcaとPbcm(あるいはPca21)が共存するナノ粒子も見られた。サファイヤマトリックスと(0001)Sapphire//(100)ZrO2、[10-10]Sapphire//[001]ZrO2なる方位関係を有することが確認された。ZrO2は、熱処理温度の範囲において正方晶が安定であるが、冷却時に単斜晶へ相変態し、これに伴い体積膨張により圧縮応力が生じる。マイクロメカニックスを用いた解析の結果、圧縮応力は3.5GPa程度であり、斜方晶I型ZrO2が形成する圧力範囲(3~8GPa)にあることが明らかとなった。
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