研究課題/領域番号 |
16K14397
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
和田山 智正 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (20184004)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 合金ナノ粒子 / 電極触媒 / 構造安定化 / ナノフレーム終端 |
研究実績の概要 |
触媒ナノ粒子は、表面ファセット(面方位)ごとに反応活性が異なるとともに、エッジサイトを起点として互いに衝突・凝集する結果、表面積が低下し失活する。従って、工業材料としての金属(合金)触媒の成否は、ナノ粒子表面ファセットの化学反応性と構造安定性の制御にある。金属ナノ粒子の構造制御は、その表面局所構造制御を含めきわめて困難な技術課題である。触媒として代表的なPtナノ粒子のエッジサイトをAu原子で終端し、化学反応性制御とナノ構造安定性の向上をねらった実験的アプローチは、国内・国外を通じてほとんど例がなく、学問的にも技術的にも挑戦すべき研究課題である。そこで本研究においては、Ptナノ粒子エッジサイトのような配位不飽和部を化学的に安定なAu原子により選択的に終端したナノフレーム構造を構築し、ナノ粒子(構造)の安定化を目指した。具体的には、Ptナノ粒子をアークプラズマ堆積(APD)により高配向性グラファイト(HOPG)基板上に堆積後、Auを追加APDする際の基板温度や堆積速度・堆積量などをファクターとして様々な粒子を作製した。得られたナノ粒子に関するサイクリックボルタメトリー(CV)測定を行い、追加堆積したAu粒子の存在するナノ粒子表面サイトを考察した。その結果、Auはナノ粒子上のエッジやコーナーなどの配位不飽和サイトに優先的に析出していることをCV測定に基づき推定した。さらに合成試料の酸素還元反応活性および耐久性を検討した結果、Auの追加堆積によりPtの電気化学表面積は低下するため、初期活性がわずかに低下するものの、電位サイクル負荷依存性(耐久性)は大幅に向上する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
HOPG上にPtをAPDして作製した試料のSTM像観察結果から、Auを追加APDする前のPtナノ粒子の平均粒径は4nm程度と見積もられたが、Auを追加堆積後の試料についても、単味Ptナノ粒子(Pt100)と比較してもその平均粒径はほとんど変化していないことがわかった。両試料に対し、電位サイクル負荷による劣化加速試験を施した後のSTM像を比較すると、Pt100では平均粒径が2倍程度増加し、電位サイクル負荷による凝集が明らかであるのに対して、追加堆積したAuの原子比率がAu:Pt=28:100のAu28/Pt100では、凝集がかなり抑制された。窒素脱気した電解液中におけるCVおよび酸素飽和電解液中におけるLSV測定の結果から、Pt100の水素吸着波は10k電位サイクル負荷後で約30%にまで縮小したのに対し、Au28/Pt100では縮小は12%にとどまった。さらに、Au28/Pt100の場合、Pt100のCVに見られるPt(110)に特徴的な0.13V付近のピークがCV上で不明瞭となっており、追加APDしたAu原子はナノ粒子のエッジやコーナーなどの配位不飽和なサイト上に優先的に位置すると推定した。以上の結果から、追加APDしたAu原子はPtナノ微粒子の配位不飽和なエッジやコーナーサイト上に存在しやすいことがわかった。すなわち、Au原子によるナノフレーム構造が構築可能であり、Ptナノ粒子表面の配位不飽和なサイトを基点とする溶解・再析出や凝集が抑制され、Au原子によるフレーム終端構造はPtナノ粒子の構造安定性向上に寄与することを実験的に明らかにした。さらに、Pt-Co系やPt-Ta系においても追加Au堆積の効果についての検討にすでに着手するなど、当初の計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究成果から、単味Ptナノ粒子に対するAu原子によるフレーム終端構造の構築が可能であることを推定したが、この結果はCV測定結果の考察に基づく間接的なものである。今後、試料の高分解能透過電顕像やEDS測定を試み、より直接的にAu原子によるフレーム終端構造の創製を確認する。さらに本年度は、昨年度着手したPtと3d遷移金属合金との合金(Pt-M) ナノ粒子、さらに窒化物や炭化物コア-Ptシェル系に対するAu原子フレーム終端に関する検討を進め、ナノ粒子が単味金属、合金、化合物かによらず、その表面をフレーム終端する手法として、APDを中心とするドライプロセスが普遍的に有効であることを示す予定である。
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