研究課題/領域番号 |
16K14398
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤井 啓道 東北大学, 工学研究科, 助教 (70560225)
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研究分担者 |
田中 孝治 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電池技術研究部門, 主任研究員 (40357439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超音波接合 / 積層造形 / マグネシウム / 銅 / 金属間化合物 / ナノ結晶 / 水素吸蔵合金 |
研究実績の概要 |
水素社会を実現するための水素貯蔵や輸送の技術開発の加速が強く求められている.Mgは水素吸蔵性に優れた材料として知られているが,反応速度が遅く,水素放出に573 Kという高い温度が必要なことが課題となっている.反応促進の方法として,合金化やナノ構造化が知られているが,既存の技術ではコストや作製時間に問題が生じている.申請者らの最近の研究より,低環境負荷・省エネルギープロセスとして知られる超音波接合を利用すると,異種金属界面にナノサイズの金属間化合物相が形成することが示唆された.本研究では,MgとCuの薄膜を超音波接合によって積層造型することより,Mg2Cuナノ合金層を有するMg/Cu超積層体を作製し,従来の常識を超えた特性を持つ水素吸蔵合金を開発するための基礎学理を究明することを目的とする. 本年度は,純Mgと純Cuの板材を用いて超音波接合を印加荷重,接合時間を変化させて実施した.得られた試料の接合界面近傍における組織解析を走査型電子顕微鏡により観察した結果,Mg2Cuの金属間化合物相が形成され,接合時間と共に指数関数的に厚さが増加することが明らかになった.また,透過電子顕微鏡を用いて,接合初期段階における金属間化合物相の観察を行った結果,ナノ結晶構造のMg2Cu相が形成されていることが明らかになった.続いて,熱電対を接合界面に埋め込むことにより,接合界面の温度履歴を測定した結果,従来の放物線則から予想される金属間化合物相よりも,4-5桁程度大きな速度で成長していることが明らかになった. MgとCuを7枚交互に重ねて同時に超音波接合をすることにより,Mg/Cuの積層体の作製も実施した.その結果,接合機の超音波ホーン側とアンビル側において金属間化合物相の成長速度に著しい相違があることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mg2Cuナノ合金層を有するMg/Cu 超積層体を作製し,従来の常識を超えた特性を持つ水素吸蔵合金を開発するための基礎学理を究明することを目的とし,本年度はMg/Cuの超音波接合および積層体の作製を行った.その後,得られた試料の超音波接合界面における組織解析を行い,優れた水素吸蔵特性を有するMg2Cu金属間化合物相の形成過程を明らかにした.金属間化合物相は,接合初期段階においてはナノ結晶構造を有しており,接合時間の増加と共に指数関数的に厚さが増加することが明らかになった.さらに,Mg/Cu積層体においては,接合機の超音波ホーン側とアンビル側で金属間化合物相の成長速度が著しく異なることが明らかになった.本研究で得られているこれらの知見は,初期の研究計画における「接合試験」,「接合界面における微細組織解析」,「接合中の温度計測」に関する実験を総括することにより得られている. 以上の実績から,初期目的に対して研究がおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
超音波接合界面において,Mg2Cu金属間化合物相の微細組織を精密に制御し,水素吸蔵特性を向上させるためには,組織形成過程に関する基礎的知見が不可欠である.そのため,超音波接合界面における組織解析は引き続き実施し,金属間化合物相の核生成-成長過程を明らかにする.また,温度測定結果に基づき,接合試料内の伝熱解析を行うことにより,与えた超音波エネルギーの接合部形成伝に至るまでの伝達過程を明らかにする.以上の知見に基づき,Mg2Cu相がナノ結晶構造を有するMg/Cu積層体を作製し,水素吸蔵特性を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
超音波接合試験における適切な条件模索や積層体の作製がスムーズに実施できたため,当初の計画より少ない材料によって試料が得られたため,物品費の支出を抑えることができたため.
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次年度使用額の使用計画 |
超音波接合界面における組織解析を精度よく実施するためには,多くの試料を作製して解析データの総数を増やすことが非常に有効であるため,当初の計画よりも多くの試料が必要となる.また,購入予定の温度測定用サーモグラフィーの時間分解能のスペックを挙げたものを購入する.
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