高靭性と高強度の両立を目指すナノ・ミクロ階層構造設計のための微視的靭性強化機構の探索と解明を目指した研究において,ナノ多結晶スティショバイトの靭性強化機構が、「破壊誘起アモルファス化」、すなわち、準安定な高圧相結晶がある臨界応力以上の引張り応力場のもとでアモルファスに相転移する現象を利用した新しいタイプの機構であることを発見した。 平成28年度は、ナノ多結晶スティショバイトの高靱性の原因として、破壊誘起アモルファス化以外の靱性強化機構が作用している可能性について検討した。ビッカース圧子により導入した亀裂を用いて、亀裂偏向による靱性強化の効果を調べた。ナノ多結晶スティショバイトの平均偏向角は13.2°であり、窒化ケイ素やジルコニア(3Y-TZP)のような多結晶セラミックスより小さく、リチウム-アルミノ-シリケート(LAS)ガラスと同程度であった。この結果より、亀裂偏向はナノ結晶スティショバイトの靱性強化に寄与するかもしれないが、鋭く立ち上がるR-曲線の起源はやはり破壊誘起アモルファス化によるものであることを示した。また、破壊靱性の粒径依存性より、架橋効果が靱性強化機構である可能性も否定された。破壊誘起アモルファス化による靱性強化の粒径依存性は、ジルコニアのマルテンサイト変態によるものとも異なった。超高圧でのガラスの結晶化というナノ結晶スティショバイトの特殊な合成プロセスが残留応力、ひいては、臨界応力に影響し、ジルコニアのマルテンサイト変態と異なる挙動を示したことが示唆された。さらに、第一原理分子動力学シミュレーションを行い、スティショバイトのアモルファス化の臨界応力の理論値が30GPa程度であることを推定した。実験的に臨界応力は7GPaと極めて高いことが予測されており、これまでの実験事実と矛盾のない結果が得られた。
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