一般に,セラミックス材料は室温ですべり変形を起こしにくく,脆性破壊を起こしやすい材料であることが知られている.これは,塑性変形を担う「転位」の運動に必要な力,いわゆるパイエルス力が大きいためとしばしば説明される.実際,理論計算等により見積もられるセラミックスのパイエルス応力は金属より高い傾向にある.一方で,立方晶系セラミックスにおいては,室温延性を示すことがある.例えば,チタン酸ストロンチウム結晶では,ゆっくりとした変形速度であれば,室温付近の温度領域でもわずかにすべり変形を起こすことが報告されている.しかしながら,理論計算結果によると,すべり面に沿った積層欠陥エネルギーが非常に高く,結果的にパイエルス応力も高い.したがって,パイエルス応力が高くなれば脆性となるという考え方は必ずしも正確ではない. 申請者らは,セラミックス転位の運動において,転位と点欠陥の単純な相互作用だけでは説明が付かないメカニズムが存在する可能性があるとの着想の元,数種類の結晶構造を有する半導体単結晶において,電子注入に伴う変形挙動の変化を調査した.その結果,特定の結晶構造を有する半導体結晶では電子の有無により劇的に塑性特性が変化することが明らかとなった.一方,単純に異種元素添加により電子構造変化を促した場合は,コットレル効果が同時に生じるため,転位・電子相互作用が不透明になることが分かった.したがって,異種元素添加以外の手法が電子量制御に有力である.なお,現状の結果からは,転位と電子の相互作用の大きさは,転位の原子・電子構造に強く依存していることが予測されている.半導体結晶に常識外の延性を発現させるための基礎科学基盤の構築が強く望まれる劇的な結果を得ており,今後これらの内容を実験と理論計算の両面から検討し,さらに発展させていく予定である.
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