研究実績の概要 |
最近,シンクロトロンX線回折を用いた研究から,4,5元系ハイエントロピー合金の強度が構成元素の平均原子変位と強い線形相関があることを見出した.この事実は,ハイエントロピー合金のような高濃度合金では,個々の構成元素の周りの歪場は,隣接原子の配列の組み合わせにより多様に変化し,転位との相互作用の強さも原子スケールで変動するが,その固溶体強度は個々の構成元素の歪場(原子変位)及びその空間変動を正しく記述せずとも,構成元素の平均原子変位をパラメーターとして記述できることを強く示唆する.種々の合金系につき,構成元素の平均原子変位と降伏せん断強度を極低温で求め,「せん断強度は歪んだ結晶格子から運動する転位が受ける動的摩擦抵抗により決定される」という新しい原理を検証することにより,これまで記述が不可能だった高濃度合金の固溶強度を構成元素の平均原子変位を主たる新規なパラメーターとして記述する新たな理論体系の確立を目指した. Cr-Mn-Fe-Co-Ni 5元系等原子分率合金は不規則FCC固溶体を形成するハイエントロピー合金として知られおり,これをもとに派生する4, 3, 2元系等原子分率合金につき,一部につきシンクロトロンX線回折で,またすべての合金につき第一原理計算により平均原子変位を求め,他の研究者により報告されている降伏応力(実際には0 Kでの外挿値)と相関を調べた.その結果,上記の仮説を3, 2元系に拡張しても,固溶体合金の強度と平均原子変位には強い線形相関があることが明らかとなった.またこの相関は,等原子分率合金ではない2元系や3元系の高濃度や希薄合金にも成り立つことが明らかとなり,「せん断強度は歪んだ結晶格子から運動する転位が受ける動的摩擦抵抗により決定される」という原則的仮説が一般性を持って成り立つことが検証できた.
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