研究課題/領域番号 |
16K14419
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
青木 画奈 神戸大学, 先端融合研究環, 助教 (90332254)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 構造色 / プラズモン / 自己組織化 / 透明電極 |
研究実績の概要 |
水中でイオン化する官能基で修飾された直径200~700 nmの微粒子分散液中に基板を配置すると、微粒子が互いに静電反発し合う結果、自己組織的に3角格子様の2次元配列周期構造を基板上に形成する現象を利用し、ガラスやプラスチック基板上に一括してナノ構造を形成した。この構造を鋳型としてアルミニウムを蒸着すると、構造色が発現し、粒径および周期に依存して色相が変化した。時間領域差分法を用いた数値計算により、基板と微粒子上半球上に堆積したアルミニウム層間のギャップでプラズモン共鳴が生じ、共鳴波長に相当する可視光が吸収され、補色が反射・干渉して色を呈していることが分かった。共鳴波長は粒子径および粒子の配列周期を変えることで制御可能である。観察角度によって色相が変化する「遊色効果」が現れるため、基板上と微粒子上半球に堆積したアルミニウム層の表面で反射した光の干渉効果が発色に最も寄与していると考えられる。アルミニウム層表面の乱反射が彩度の低下を招いている事が分かり、アルミニウム層上にクロムやゲルマニウム等の可視光全域を吸収する金属を2~8 nm積層すると、CIE1976色度図上で日本のオフセット印刷の標準色であるJapan Color 2001の表色境界付近まで彩度を向上させることができた。 更に、基板上に形成した微粒子の自己組織配列構造を透明電極形成技術に応用した。ガラス基板上に形成した微粒子配列構造上に銅を蒸着した後に、微粒子をリフトオフすると、透過率50%、シート抵抗値6.3 Ω/sq.の値を得た。これらの値は、既存のITO基板の透過率およびシート抵抗値より30%低い値で、高精細な画像表示が必須ではない用途には既に商業利用できるレベルである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の予備実験の時点で既に青色を発現できていたので、平成28年度は緑~黄色を発現することを目標にしていた。当初予定していた100~300 nmの微粒子に加えて、400~700 nmの粒子も微細構造の鋳型として使用した結果、予定より広範囲な緑~橙色まで発現できた。アルミニウム層の表面粗さに由来する乱反射が原因で発現色の彩度が低下していることをつきとめ、乱反射光の吸収層としてアルミニウム層上にゲルマニウムあるいはクロムを2~8 nm積層し、彩度を大幅に向上させることが出来た。ガラス以外の基板上に構造色を印刷する課題は次年度に取り組む予定であったが、平成28年度中にポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの汎用プラスチック上にもガラス基板と同等の構造色を発現できることを確認した。 しかし、同一基板上に多色印刷を施す課題に関しては、調整条件の異なる微粒子分散液の基板との接触領域を区分けしても、洗浄時に微粒子が他領域に付着し、混色する問題に直面しており進展していない。
ナノ微粒子の自己組織配列を、透明電極基板形成に応用する用途も見いだした。基板上の2次元微粒子配列を鋳型として利用し、銅を蒸着した後、微粒子を除去するだけで、簡便に透明電極基板を形成する技術を開発した。直径3.5 micronの粒子を鋳型として用い、銅を50 nm蒸着した基板において透過率50%、シート抵抗値6.3 Ω/sq.の値が得られた。これは、市販のITO基板の透過率80%、シート抵抗値9.4 Ω/sq.に迫る性能で、厳密波結合波理論を用いた数値計算では直径3.5 micronの粒子を3.7 micron周期で配列すれば、透過率を70%まで向上させることが可能であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
赤色呈色を実現し可視光全域を網羅するために、800~900 nmの微粒子を鋳型とした構造色構造を形成する。多色印刷への取り組みは一旦休止し、モノトーンの意匠の表現技術を確立する。意匠の形状にカットしたマスクを基板に接着してから微細構造形成プロセスを進め、アルミニウムを蒸着した際に、構造色が発現する領域とアルミニウムそのものの銀色が呈される領域が現れ、意匠が表現される印刷法を確立する。マスクには溶剤不要で剥離できるカッティングシートを用いる予定である。意匠はレーザ加工機を用いて形成する。 また、構造色構造の耐久性を向上させるためにマスク層形成について検討する。無機材料基板上にはポリシラザン系ガラスコート剤、プラスチック基板上にはラミネート保護層を圧着する方法を採る予定である。保護層形成による色相・彩度変化について、光学測定により検証し、時間領域差分法および厳密波結合理論を用いた数値計算で解析を行う。
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備考 |
・Best Poster Presentation Award受賞:T. Yoneyama, K. Aoki and M. Fujii, NFO-14, Hamamatsu, Japan, September 4-8, 2016. ・専門誌掲載:青木画奈、米山貴之、志賀隆之、プラズモン共鳴と干渉を用いたフルカラー構造色印刷技術 コンバーテック、pp.57-61、加工技術研究会、2017年2月号.
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