研究課題
硬質粒子であるVC炭化物上に軟質粒子であるCuをその場析出させるための熱処理条件について検討を行った。具体的にはγ+VC二相域温度から、冷却速度を種々変化させてCuを析出させ、その析出サイトや得られる粒子のサイズなどについて調査を行った。その結果、冷却速度が速い空冷材ではCuがseparate nucleationを生じ、冷却速度が遅くなるにつれてVC上にin-situ nucleationする傾向が認められた。ただし現状では、in-situ nucleationの場合にも完全なコア-シェル構造というよりは、ある特定の結晶方位にCuが伸長する様子が観察された。これについては、今後熱処理条件をさらに検討し、析出形態の制御に関する技術を確立することが必要であろう。得られたVC-Cu複合析出材の全て、ならびに比較材のCu、VC単独析出材について引張試験により機械的性質の評価を行ったところ、VC-Cu複合析出材では単独析出材よりも高い強度を有しながらも、VC鋼と同等の延性を示すことが明らかとなった。VC鋼とCu鋼について、高分解能SEM内その場引張試験を用いたナノスケールDIC法を実施し、30nmの粒子周りの不均一変形を可視化することに成功した。観察の結果、VC鋼においては硬質VC粒子周りに高ひずみ領域が発生することが確認されたが、Cu鋼の場合、粒子とは離れたフェライト基地内部で優先的に塑性変形が生じることが明らかとなった。これは、Cu粒子内部がフェライト域に比べて低応力で弾性・塑性変形を生じて応力緩和を生じていることを示唆している。従ってCuをVCにin-situ nucleationさせた鋼の優れた機械的性質は、析出粒子起点のひずみ集中によるボイド生成による延性破壊が抑制されたためと説明される。今後の研究による析出形態の改善により、特性のさらなる向上を図ることができると考えられる。
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J.Appl. Cryst.
巻: 50 ページ: 334-339
https://doi.org/10.1107/S1600576717000279 Cited by 1
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