研究課題/領域番号 |
16K14428
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
坂井 伸行 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (70431822)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 超薄膜 / 超格子 / 光触媒 / 太陽光発電 / ナノシート / 超親水性 / 光電荷分離 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、異種ナノシートとのヘテロ接合により光電荷分離効率が向上するか、また、分離した電荷を反応に利用できるかについて、酸化チタンナノシートの光誘起超親水化特性に着目して検討を行った。超親水性の発現には光生成した正孔が重要な役割を担っており、酸化チタンナノシートの励起電子を別のナノシートに移動させることにより正孔をより効率的に利用できると期待される。そこで、電子アクセプターとして働く還元型酸化グラフェンとのヘテロ構造膜を作製し、光誘起超親水化反応におけるヘテロ接合の効果について調べた。 まず、層状化合物を単層剥離して得た各種ナノシートの分散液を用いて、レイヤーバイレイヤー法により基板上にナノシート単層膜やヘテロ構造膜を作製した。次に、得られたヘテロ構造膜の光誘起親水化特性について検討した。還元型酸化グラフェン単層膜の上に酸化チタンナノシート単層膜を積層したヘテロ構造膜は、酸化チタンナノシート単層膜よりも2.8倍高い親水化活性を示すことがわかった。これは、酸化チタンナノシートの励起電子が還元型酸化グラフェンに移動するために正孔との再結合が抑制され、親水化を誘起する正孔をより効率的に利用できたためと考えられる。一方、窒素雰囲気下で同様の検討を行うと親水化活性は著しく低下し、還元型酸化グラフェンとの接合による活性の向上は得られないことがわかった。これらのことから、ヘテロ接合による活性の向上は、酸化チタンナノシートから空気中の酸素への電子移動プロセスが還元型酸化グラフェンを介して促進されることに起因すると結論づけられた。 以上のことから、異なる電子構造を持つナノシートのヘテロ接合により光電荷分離効率が向上することが明らかとなり、高効率な光触媒や太陽電池、発光デバイスなどへの応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化チタンナノシートに還元型酸化グラフェンをヘテロ接合させることにより、酸化チタンナノシートの光誘起親水化活性が2.8倍に向上することを見出した。これは、酸化チタンナノシートの励起電子が還元型酸化グラフェンに移動することにより正孔との再結合を抑制し、正孔を効率的に親水化反応に利用できたためと考えられる。本研究の当初の目的である、異種ナノシートとのヘテロ接合による光電荷分離効率の向上や分離した電荷の光誘起親水化反応への利用を実現でき、また、これらの成果をJ. Phys. Chem. C誌で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
還元型酸化グラフェンとのヘテロ接合による酸化チタンナノシートの光誘起親水化特性の向上は、酸化チタンナノシートの励起電子が(1)還元型酸化グラフェンに移動し、(2)還元型酸化グラフェン中を拡散し、(3)最終的に空気中の酸素に捕捉される、という三つのプロセスを経ることにより再結合が抑制され、光電荷分離効率が向上したことによると考えられる。今後は、この三つのプロセスのうち、どのプロセスが光電荷分離効率の向上に最も大きく寄与するのかについて調べる。そのために、還元型酸化グラフェンの代わりに酸化ニオブナノシートや酸化マンガンナノシートなど、酸化チタンナノシートの励起電子のアクセプターとして働くと考えられる電子バンド構造を持つナノシートとのヘテロ接合による光誘起親水化特性への影響について検討する。また、光誘起親水化反応だけではなく、酸化分解型の光触媒反応においてヘテロ接合がどのような効果を与えるのかについても調べる。
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