研究課題/領域番号 |
16K14428
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
坂井 伸行 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (70431822)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノシート / 酸化マンガン / コバルト / ドーピング / 還元型酸化グラフェン / 超薄膜 / ヘテロ積層 / 蓄電池 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、レドックス活性なナノシートに着目し、異種元素のドーピングや異種ナノシートとのヘテロ積層がナノシートの電気化学特性に与える影響について調べた。 レドックス活性なナノシートの一つである酸化マンガンナノシートのマンガンを一部コバルトに置換したナノシートを合成し、その電気化学特性について検討した。コバルトをドープした層状マンガン酸化物を出発物質として用い、プロトン交換後、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液中で振とうすることにより、単層に剥離したナノシート分散液を得た。コバルトのドープ量に応じてレドックス電位がシフトし、光学特性から見積もられる電子準位のシフトと一致することがわかった。また、レドックスサイクルに対するナノシートの安定性がコバルトのドープにより向上することを見いだした。 一方、酸化マンガンナノシートと還元型酸化グラフェンが交互に積層した複合材料を開発し、蓄電デバイスの高容量化と長寿命化を達成した。複合材料を負極活物質として作製したコインセルは、カーボンを負極とする従来のリチウムイオン電池に比べて2倍以上の負荷容量が得られた。また、レドックスサイクルあたりの容量減少は0.004-0.008%であり、既知の材料の中で最も長いサイクル寿命であった。還元型酸化グラフェンとの複合化により電極の抵抗が低下したことや、酸化マンガンナノシートが還元型酸化グラフェンとの積層により空間的に隔離されレドックスサイクルが安定化したことが特性向上に寄与したと考えられる。 以上のことから、ナノシートへの異種元素のドープや異種ナノシートとのヘテロ積層により、レドックス反応に対するナノシート材料の安定性が向上することが明らかとなり、蓄電デバイスやエレクトロクロミックデバイスなどへの応用が期待できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一年目は、酸化チタンナノシートに還元型酸化グラフェンをヘテロ接合させることにより、酸化チタンナノシートの光誘起親水化活性が向上することを見出した。これは、酸化チタンナノシートの励起電子が還元型酸化グラフェンに移動することにより正孔との再結合を抑制し、正孔を効率的に親水化反応に利用できたためと考えられる。異種ナノシートとのヘテロ接合により光電荷分離効率が向上し、分離した電荷の光誘起親水化反応への効率的な利用を実現できた。これらの成果はJ. Phys. Chem. C誌で発表することができた。 二年目は、酸化マンガンナノシートを還元型酸化グラフェンと原子層レベルで交互にヘテロ積層した複合材料を開発した。複合化により、電極抵抗の低減やレドックスサイクルの安定化が得られ、蓄電デバイスの高容量化と長寿命化を達成できた。これらの成果はACS Nano誌で発表することができた。異種ナノシートのヘテロ積層により、当初の目的である光電荷分離効率の向上のみならず、蓄電デバイスとしての特性向上も達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、異種ナノシート間での電荷移動プロセスについて詳細に検討していきたいと考えている。例えば、還元型酸化グラフェンとのヘテロ接合による酸化チタンナノシートの光誘起親水化特性の向上は、酸化チタンナノシートの励起電子が(1)還元型酸化グラフェンに移動し、(2)還元型酸化グラフェン中を拡散し、(3)最終的に空気中の酸素に捕捉される、という三つのプロセスを経ることにより光電荷分離効率が向上したことによると考えられる。これらのプロセスを個々に調べるために、還元型酸化グラフェンの代わりに酸化ニオブや酸化マンガンなどの別のナノシートを用いてヘテロ構造を構築する。これらは、酸化チタンナノシートの励起電子のアクセプターとして働くと考えられる電子バンド構造を持つ。また、光誘起親水化反応だけではなく、水分解やその半反応などの光触媒反応においてヘテロ接合がどのような効果を与えるのかについても調べる。
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