省資源・省エネルギーの観点から、高張力鋼に代表される高強度構造材料の使用拡大が検討されている。しかし、鋼の強度の増加に伴い水素脆化感受性も増大するため、水素脆化の抑制が求められている。そこで、水素と同じ侵入型元素である窒素をあらかじめ鋼材表面に固溶させることで、水素侵入耐性に優れた鋼材表面を構築する研究を行った。昨年度に、プラズマ窒化処理により純鉄表面に窒化物層を形成すると、酸性溶液中およびホウ酸緩衝溶液中において、水素発生反応に伴い侵入する水素の量を大幅に低減できることを明らかにした。今年度は、純鉄表面に窒化物層を析出させることなく母材に固溶させた窒素固溶層を作製すること、またその窒素固溶層の水素侵入挙動の評価をすることを実施した。 フェライト相への窒素固溶量は極めて少ないため、オーステナイト相へ窒素を固溶させ、その後急冷してマルテンサイト相を形成させることを狙った。保有するプラズマ発生装置では、試料を急冷することができなかったが、プラズマ窒化により窒素を固溶させた後に熱処理を行うことで、窒素マルテンサイト相を表面に形成することができた。表面に窒素マルテンサイト相を形成させた純鉄の水素透過挙動を、電気化学水素透過セルを用いて評価すると、未処理の純鉄と比較して水素透過電流が約25%減少することが分かった。近年の研究から、マルテンサイト相は耐食性に優れることが報告されており、本研究で見出された窒化処理は水素侵入耐性と耐食性を向上させる可能性があることが示唆された。
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