ジメチルスルホン浴を用いた電解析出法による、高強度・高延性バルクナノ結晶アルミニウム合金の作製を目的として行った。 最初に、合金化による脆化元素である硫黄・塩素除去プロセスの構築を行った。様々な合金元素を含む電析アルミニウム合金を作製した結果、合金元素種によって試料中の硫黄・塩素濃度が変化することが明らかになった。その中でAl-Ga合金において、30%以上の延性を示す電析純Alと同程度の硫黄・塩素濃度を達成した。このAl-Ga合金は塑性変形能を示すものの、その伸びは3%程度であった。これは、Ga自体も粒界脆化元素であることに起因する。そこで、硫黄・塩素濃度が電析純Alと同程度となる最小のGa濃度を明らかにし、これをベースの合金とした。 次に、合金化による固溶強化、結晶粒微細化を検討した。添加元素として、Mn、Fe、Zr、Cuを選択した。全ての合金のXRDパターンにおいて、Alのfccピークのみが見られ、析出物に起因するピークは見られなかった。電析浴中に新たに金属塩を添加することによって、硫黄・塩素量が増大することはなかった。いずれの試料においても、電析純Alと比較して、結晶粒径の微細化と硬度上昇が確認できた。また、曲げによる塑性変形が確認できた。そこで、バルク試料を作製し、引張試験を行った。 引張試験の結果、Al-Cu、Al-Mn合金は350MPaを越える高強度を示したが、弾性変形領域で破断した。この理由として、表面形態に起因する粗大な欠陥が破断の起点となったことが考えられる。一方、Al-Zr合金は156 MPaの引張強度、20%の延性を示した。この合金の降伏強度と伸びは、非熱処理型商用Al合金の強度-延性バランスにおける最高値と同等であり、これらの結果から、合金元素を多く含む商用Al合金と同等の強度・延性バランスに優れる電析Al合金の作製に成功した。
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