研究課題/領域番号 |
16K14443
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
早稲田 嘉夫 東北大学, 多元物質科学研究所, 名誉教授 (00006058)
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研究分担者 |
篠田 弘造 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (10311549)
助永 壮平 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (20432859)
柴田 浩幸 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (50250824)
打越 雅仁 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60447191)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 溶融塩 / X線吸収分光 / 局所構造 |
研究実績の概要 |
溶融塩電解によるタンタル(Ta)回収法確立が本研究における最終目標である。アルカリ金属Li, Na, Kのフッ化物混合塩(FLINAK)をベースに、アルカリ金属比一定のまま一部塩化物に置き換えた混合ハライド塩を考えることにより、低温電解回収実現を図る。この目標達成のために重要と考えられる、各元素原子周囲の原子レベルでの環境構造を明らかにし、溶融塩組成や温度条件等との関連を考察し最適化するための基礎的知見を得る。本研究では、Taを中心とした環境構造についてはX線吸収分光、アルカリ金属およびハロゲンを中心とした環境構造については核磁気共鳴を適用して構造解析を進める計画である。ただし、核磁気共鳴実験においては、高温溶融状態での測定は実施できないため、一度溶融した後冷却固化させた試料への適用に限定される。今年度の目標は、核磁気共鳴測定データとの比較検討実施を見据えたX線吸収分光による冷却固化溶融塩中におけるTa原子周囲の環境構造解析、および溶融状態でのその場測定結果に基づく環境構造解析を試みることであった。SPring-8の産業利用ステーションBL14B2において実験を実施し、冷却固化状態および溶融状態における局所構造は、融点に近い比較的低温では差がないが、650℃以上の高温では異なることを示す結果が得られた。今後実施する核磁気共鳴測定に用いる試料は、できるだけ高温溶融状態の構造を保持するよう急冷するなどの対策が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
融点454℃の46.5LiF-11.5NaF-42.0KF(%) フッ化物塩(FLINAK)にTa源としてK2TaF7をTa濃度1質量%となるように添加して600℃で溶融し、冷却固化した試料およびその高温その場X線吸収分光測定を、2度にわたってSPring-8 BL14B2において実施した。その結果、以下の2点が明らかとなった。ひとつは、固化試料中におけるTa原子周囲の局所環境構造は、基本的に700℃まで昇温した溶融状態でも大きく変わらないこと、そしてもうひとつは、アルカリ金属組成を維持しつつフッ化物を全ハロゲンの約10 mol%だけ塩化物に置き換えた混合ハライド塩とした場合、固化状態および600℃までの比較的低温条件では純フッ化物塩と同様の構造であったものが、650℃まで昇温すると大きく変化することである。これら局所構造の違いは、溶融塩電解実験を行った際に純フッ化物塩からは650℃でも析出Taがデンドライト状となりアルカリ金属フッ化物成分を巻き込んでしまうのに対して、一部塩化物とした混合ハライド塩からは650℃で緻密かつ平滑な金属Taの析出が得られた事実と符合する。ただし、現在X線吸収分光測定実験で使用している試料加熱炉は、600℃以上の高温領域における温度制御が不安定という問題がある。試料加熱炉の改良が必要である。また、徐冷では固化した試料中の構造が融点付近の温度における構造となってしまい、固化試料の測定に限られる核磁気共鳴実験において、急冷固化可能なシステム導入が不可欠ということがわかった。次年度以降、検討することにしている。
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今後の研究の推進方策 |
X線吸収分光による溶融塩中のTa局所環境構造解析を継続して進める。溶融塩組成が局所構造に及ぼす影響、そしてその温度依存性を調べるとともに、溶融状態でのその場測定ができない核磁気共鳴測定のため、高温条件下での局所構造を維持したまま急冷固化した試料を用意する。産業廃棄物からのタンタル回収を想定すれば、Ta源に酸化物を用い、系内に酸素が入った組成の場合に、Ta原子に配位するのがFやClといったハロゲンのみなのか、Oがハロゲンよりも親和性が強いのかを調べることは重要である。しかし特にFとOは原子番号が隣り合うため、Taを中心としたX線吸収分光による局所構造解析では、それらを明確に識別することが困難である。そこでは、Ta側からではなくFやO側からの配位構造を知ることのできる核磁気共鳴は極めて有用であるので、いかにして固化した試料中の局所構造を高温溶融状態にある試料中の構造とみなせる状態に保つかが重要となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
X線吸収分光の、高温その場測定実験に用いる試料加熱炉を開発・製作する予定であったが、本年度実施した実験においては既存の試料加熱炉を用いて対応した。そこで得られた要改善点の知見をもとに加える改良作業が、次年度実施となった。X線吸収分光を用いた詳細な構造解析、および室温での測定に限定される核磁気共鳴実験結果に基づく構造解析結果と組み合わせた、溶融塩全体の局所構造へのより深い理解という本研究の最終目標を達成するためには、むしろ次年度での使用が適切と考える。
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次年度使用額の使用計画 |
現在採用している、試料加熱炉の仕様である伝熱加熱あるいはランプヒータによる加熱方式での改良も可能性として考えつつ、迅速加熱および冷却や正確な温度モニターが可能なホットサーモカップル法による新しい形式を採用した試料加熱炉の新たな開発を検討し、いずれかのアプローチで今後の高温その場測定実験に対応する試料加熱炉を製作し、実験に使用する計画である。これらの研究成果は代表者や分担者が総合的に討議して、発表していく予定である。
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