研究課題/領域番号 |
16K14452
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
植田 芳昭 摂南大学, 理工学部, 講師 (00599342)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄鋼精錬プロセス / 流体力学 / 音響学 |
研究実績の概要 |
本研究は、鉄鋼精錬プロセスにおいて、反応容器内で起こるメゾスケールな界面現象によって発生する多量のマイクロバブルの生成量(反応効率に関係する)と、マイクロバブルが発生するときに生じる音圧スペクトルとの相関について調べ、反応プロセスの効率にとって重要である気液界面現象を音響学的に診断する手法の可能性の探求と、その構築を目指している。用いる方法は、水と溶鋼の動粘度がほぼ等しいことに着目した水モデル実験である。 本年度は、所定の深さまで水を浸した透明なアクリル製円筒容器に、その容器底部中央に取り付けた十分小さなノズルから、マスフローコントローラーによって流量調整された空気を送り込むことによって、連続的に数ミリ径の気泡群を生成した。その様子を、毎秒1万コマの高速度カメラで撮影し、ノズルで気泡が形成される様子を撮影すると共に、容器外側底部のノズル近傍に設置した騒音計により、ノズルで気泡が10数個生成される間の音圧を計測し、周波数解析を行った。 それにより、既往研究で明らかとなっている、単発の気泡がノズルで生成されるときにその体積膨張によって発生する周波数と、ノズルから気泡が離脱することによって気泡表面上に伝播する表面張力波による周波数に加えて、非常に強い音圧スペクトルがそれらとは異なる周波数帯域で計測された。高速度カメラによる撮影画像との比較により、この強い音圧スペクトルは、ノズルで生成された気泡同士の合泡によって発生するレイリージェットによるものと推察している。 レイリージェットは、化学反応を促進する現象として知られているため、溶鋼のような不透明な液体に対して、この現象の発生を浴外から知ることができれば、反応プロセスの音響学的診断に繋げることができると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射音の測定には、室内音による影響だけでなく、容器壁での反射音による影響等、様々な外乱を軽減できるように実験装置を構成せねばならず、この点で時間を要した。しかしながら、本実験装置によって、既往研究で明らかとなっている、ノズルで気泡が形成されるときの周波数と、気泡がノズルから離脱した際に気泡表面上に形成される表面張力波による周波数を捉えることができており、実験装置としては、ほぼ完成したものと考えている。 この実験装置を用いて、ノズルから生成される気泡同士の合泡による「レイリージェット」による放射音と推察される音圧スペクトルを、上記2つの周波数以外の帯域で計測した。この事実を特定するためには、マイクロ秒の時間スケールで発生する、気泡の生成と合泡の現象を、高速度カメラと騒音計(水中マイク)との同期計測を必要とするが、これについては次年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、【現在までの進捗状況】で言及した、単発の気泡が発生する場合には計測されない強い放射音が、気泡同士の合泡によって発生するレイリージェットによるものであるか検証する予定である。 そのため、騒音計(および水中マイク)をオシロスコープを介して繋ぎ、高速度カメラの撮影画像と同期させることによって、検証を行う予定である。 レイリージェットは、化学反応を促進する現象として知られていることから、溶鋼のような不透明な液体に対して、この現象の発生を浴外から知ることができれば、反応プロセスの音響学的診断に繋げることができると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の実験では、ノズルから生成される気泡の様子とその放射音について計測したが、放射音の計測には、室内音だけではなく、容器壁面での反射音の影響も軽減せねばならず、そのような実験装置や実験手法の構築に時間を要した。 他方、音響の実験を遂行していくなかで、気泡生成の様子を撮影する高速度カメラと、放射音を測定する騒音計(および水中マイク)の精度の良い同期計測(特に、マイクロ秒単位での同期計測)が必要であると感じるようになった。この実験については、引き続き、次年度行う予定である。 このような時間的都合から、次年度に使用額を一部繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、ノズルから気泡群が生成される様子を、高速度カメラを用いて撮影すると同時に、マイクによってそのときの放射音を計測する予定である。高速度カメラとマイクの同期を行うための諸器具の購入に、前年度の繰越分を充当したいと考えている。
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