イソタクチックポリプロピレン(iPP)の劣化機構を検討するために、iPPの熱劣化に着目し、ラマン分光法および小角X線散乱実験によるその場測定を行なった。熱劣化により材料物性が低下するよりも以前に、微視的スケールにおいて、結晶度の増大や非晶厚の低下が生じることがわかった。この劣化の初期段階においては、分子量の低下は見られないものの、これらの現象は窒素雰囲気下においてはほとんど生じないことから、わずかな数の分子鎖の切断がトリガーとなって、非晶鎖のらせん鎖を引き起こし、結晶化による体積収縮が力学物性の低下を引き起こすものと解釈できる。また、これらの各空間スケールにおける劣化現象に対して、それぞれの時定数を求めたところ、いずれの現象もアレニウス型の温度依存性を示すものの、スケールの大きな現象ほど活性化エネルギーが大きいことがわかった。このことが原因となって、物性低下のような巨視的な劣化現象は温度依存性が強いため、温度による加速効果が非常に大きいが、結晶化のような微視的な現象は温度依存性が弱いために、低温ほど階層間の伝播に時間を要し、熱劣化現象を見かけ上複雑にしていると考えられる。これまでの研究成果より、マトリックスであるiPPの光および熱による劣化過程においては、体積収縮が力学物性の低下を引き起こす要因の一つと考えられるので、軟質なポリプロピレンカーボネート材料は、紫外線吸収材として機能する発光ナノカーボンを良好に分散させるのみならず、体積収縮の際に緩衝材として機能している可能性があることがわかった。
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