研究課題/領域番号 |
16K14457
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
牧 泰輔 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10293987)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロリアクター / 蒸留 / 微小チャネル / マイクロ単位操作 |
研究実績の概要 |
マイクロチャネルは比表面積が高いことから、迅速な伝熱や物質移動、さらには精密な制御が可能という利点を有しており、迅速混合が可能で、温度制御性が高いマイクロリアクターへの応用が進んでいる。しかし、蒸留デバイスにおいては、高伝熱速度や気液界面席により効率向上が期待されているものの、界面張力が支配的となるため、安定な気液の分離が困難とされている。本研究では微小流路を用いたマイクロ蒸留器を試作し、水-エタノール系についてその性能を検討した。 本研究で作成したマイクロ蒸留器は縦7.0 cm、横15.0 cm、高さ1.2 cmで、内部の流路の深さは0.5 ~1.5 mmである。蒸留器内の温度分布制御は上下表面に設置した加熱器により行った。原料のエタノール水溶液をマイクロ蒸留器に供給し、高温部と低温部の2つの出口から流出する流体を採取し、その組成を屈折計を用いて測定した。 2種類のエタノール濃度(20、50wt%)に対し、流量を変更して実験を行ったところ、いずれの濃度・流量においても留出液においてエタノール組成を80wt%まで濃縮することができた。通常のフラッシュ蒸留では20wt%のエタノール水溶液は68wt%程度までしか濃縮できないが、マイクロサイズの流路を用いて効率的に気液接触させたことによって濃縮を進めることができたといえる。この結果はマイクロ流路内において連続蒸留が行われていることを示しており、蒸留塔3段程度に相当する。通常の蒸留塔では一段あたりの高さは160 mm ~ 800 mmであるが、開発したマイクロ蒸留器では33 mm ~ 50 mmと1/3までに縮小することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロ蒸留器を試作し、その性能をエタノール水溶液の濃縮により評価した。その結果、内部の微小チャネル内において連続蒸留が行われていることを確認するとともに、従来の蒸留塔と比較して一段あたりの長さを1/3以下に縮小できることを示した。以上より、微小チャネル内で気液平衡を迅速に達成すること、蒸留器内に強制的に温度分布を設けて気液平衡状態を連続的に変化させることで効率的な分離が可能であることを明らかにしており、研究項目(1)「高速な気液平衡と気液分離を達成する蒸留装置の開発」について当初の目的を達成した。したがって、本研究課題は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は主に研究項目(2)「3相スラグ型液膜分離器の開発」に取り組む。まずは水相1-油相-水相2の3相スラグ流を安定に形成する流路設計と操作法について検討する。液膜分離においては。水相1が原料相、水相2が分離相であるため、両者が合一しないようにスラグ形成をコントロールする必要がある。また、液膜分離後に水相1と水相2を分離して回収しなければならないため、非常にハードルが高い課題といえる。このような流路設計は困難であると判断した場合は、抽出と逆抽出を別個にスラグ流を用いて連続的に行うデバイスの設計に取り組む。 分離性能はセリウムの濃縮分離によって評価する。セリウムの抽出・逆抽出挙動は放射性ウランと類似しているため、本検討により開発デバイスが低レベル放射性廃液濃縮に有効か明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
蒸留デバイスの流路パーツを以前の研究で作成した蒸発濃縮デバイスの流路と共通化したため、予定よりも安価に蒸留デバイスが作成できた。また、次年度の連続液膜抽出デバイスは多種類の流路を新たに作成する必要があり、高額な研究費が予想されるため、約80万円を次年度使用した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の大部分を液膜抽出デバイスの作成に充てる。特に水相ー油相ー水相の3相スラグ流の安定形成に対する流路形状の影響を検討するためには、多くのマイクロ流路を作成して試験する必要がある。このマイクロ流路作成のための3Dプリンタ樹脂(価格 約10万/kg × 5kg = 約50万)と形成したスラグの挙動を観測のための光センサー(約8万円×4ヶ = 約32万円)購入に使用する。
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