ピッカリングエマルション(以下PE)とは、強い界面活性を持つ微粒子によって非相溶な液体同士の分散状態が安定化されたものである。このとき粒子形状が分散状態に大きな影響を及ぼすが、その効果の全容は未解明である。我々は形状と化学的性質を高度に制御した両親媒性正多角形微粒子を作成し、形状の効果を解明することを目的として研究を行っている。 平成28年度に両親媒性正多角形粒子の作成手法を確立した。平成28年から29年度にかけて、作成した正三角形、正方形、正五角形、正六角形および円形板状粒子を用いて油中水滴型のエマルションを作成し、粒子形状・液滴サイズと水滴表面での充填構造の関係を調べた。その結果、液滴サイズが大きいとどの粒子形状でも平面での最密充填構造が形成されること、液適サイズが小さいときは、正多面体(プラトンの立体)が好まれることなどを解明した。即ち、粒子の幾何学的な特徴がエマルション液滴の形態や粒子の自己集合構造に支配的な影響を及ぼすことを解明した。このような界面活性粒子の形状による効果を系統的に解明したのは本研究が初めてであり、生体内の構造形成や製薬などの材料科学において重要な役割を果たすエマルション化において新規な手法や発想をもたらす成果であると考えている。 平成30年度は更に粒子配置の定量的な解析などを行って論文としてまとめ、また以前に行った球状両親媒性粒子の研究と正多角形粒子のものを合わせた記事を執筆した。さらに上記の粒子作成手法を応用し、両親媒性だけでなく電場を加えることで「自走」する能動性を粒子に付与することに成功した。この粒子は異方的な形状に依存した特徴的な能動運動を示し、エマルション化過程や液滴輸送に「能動性」という従来にない機能性を導入しうる新規な界面活性剤となる。
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