研究課題/領域番号 |
16K14479
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
實川 浩一郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50235793)
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研究分担者 |
水垣 共雄 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (50314406)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 触媒反応 / 複合系触媒 / 減炭反応 / ナノ粒子 / バイオマス |
研究実績の概要 |
バイオマス化合物を汎用化成品に変換するためには、ターゲットとする化合物に多数存在する酸素官能基を水素化分解してC-OH結合をC-H結合に変換する必要がある。本研究では1級アルコールのヒドロキシメチル基を脱離させて、1炭素減炭した化合物を得る反応を促進する新規な触媒を開発することを目的として研究展開した。平成28年度は、還元剤として汎用される分子状水素を用いるので水素活性化能力を有する貴金属と、脱酸素を行うので酸素官能基に対して親和性の高い金属酸化物とを複合化させた固体触媒を調製し、両者が協奏的に作用して多段階の素反応(金属酸化物の脱酸素・金属アルコキシドの生成・水酸基の脱水素・カルボニル基の脱離・末端水素化などの各ステップ)を効率的に進行させることを中心に検討した。 触媒の活性中心として用いる貴金属は水素雰囲気で還元されてナノ粒子化し、担体となる金属酸化物の表面で複合体を形成している。この貴金属ナノ粒子上で解離した水素は金属酸化物の格子酸素を還元して構造欠陥ができ、その欠陥空隙に1級アルコールの水酸基が捕捉されて金属アルコキシドが生成する。次にアルコキシドのβヒドリド脱離によって末端ホルミル基となった後、貴金属によって脱カルボニル化が起こり、同時に貴金属種によって活性化された水素種が末端攻撃して炭素1個が減じた化合物が得られる。 以上の指針に基づき、Pt, Ru等の貴金属とハイドロキシアパタイトやセリアのような酸化物担体を複合化させた触媒を調製し、1級水酸基を有する各種のジオール類やレブリン酸などのバイオマス化合物を基質とする脱ヒドロキシメチル化反応を行なったところ、高い活性と選択性を示して目的反応が進行することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は概要に示した設計指針に基づき、水素活性化能を有する貴金属としてRu、Ptを中心に検討し、酸化物担体としてはセリア(CeO2)またはハイドロアキシパタイト(HAP)を用いて、目的とする反応を進行させる複合系触媒を合成した。その触媒を用いて以下に示す検討を行った。 (1)1,4-ペンタンジオールをモデル化合物に選び、各種ナノ粒子触媒を用いて、各種の反応条件、特に温和な条件で効率よく脱ヒドロキシメチル反応が進行するか確認した。その結果、特にRu/CeO2触媒について予想通りの活性が見られて、当初予想した設計指針が正しいことが判明した。(2)この触媒の特性を明らかにするため、各種分光スペクトルを測定し、触媒のキャラクタリゼーションを行ない活性発現のメカニズムを検討した。 Ruが高い反応活性を示したのは、当初に予想したメカニズムにおいて、反応中間体として生成するルテニウムカルボニル(Ru-CO)種が水素化されてメタンとなり、これが活性種から速やかに脱離するので反応が効率よく進行したものと考えられる。通常はカルボニル種は金属に強く結合するのでターンオーバーしにくいが、ナノ粒子を用いているので、COを吸着しているRu種と水素を活性化しているRu種がナノ粒子上に隣接して存在し、カルボニルの水素化とメタンの脱離が容易に進行するために、このような高い触媒活性が見られたと考えている。以上の結果は当初予想したもの以上であり、すでにいくつかの学会で報告して論文も投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度で反応の基本的な検討を行なった触媒を用いて、研究の第2段階として基質の拡張性と、触媒反応の実用化を目指した検討を行なう。特にRu/CeO2触媒は水を反応溶媒とする系で高い活性と選択性を示すことを見出しており、環境調和型反応に対して、(i)再生可能資源であるバイオマスを用いること、(ii)環境に理想的な溶媒である水を用いることの2点が特徴となる。現在この触媒を用いて、各種基質に対する反応性を検討しており、特にファインケミストリーへの適用も考えて他の含酸素官能基、エステルや含窒素官能基を含む基質にも展開する計画である。さらに今後の触媒反応の実用化を目指して、バッチ式でスケールアップした系での反応や、実用化を目指したフロー系での反応の検討も行なう。また、この触媒系の開発によって、バイオマス由来のポリオール類を基質に用い、選択的な還元的脱炭反応による有用ケミカルズ合成のプロセスが可能になるので、その展開に向けて検討を行う計画である。 一般に固体触媒は活性が低いために反応に高温を必要とし、ファインケミストリーに適用する官能基変換反応には用いることが困難であった。我々は金属をナノ粒子化することによって固体触媒を活性化し、さらに担体と複合化させることによって協奏的な機能を発揮させ、効率的な触媒を開発する方向について知見を得ることができた。今後はこのような設計指針に基づき、液相での環境調和型の官能基変換反応に高活性高選択性を示す反応を開発できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的な使用により若干の残額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度分と合わせて使用する計画である。
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