Heプラズマ照射によりW板表面に幅数十ナノメートル,長さ数マイクロナノメートルの樹枝状ナノ構造体を形成させることに成功した.TEM観察より,W表面に数nmの酸化膜が覆っている部分と金属がむき出しになっている部分があり,ナノ構造体内部にはHeバブルが存在していることも確認できた. この樹枝状ナノ構造を酸化処理することによって,比表面積の大きなWO3/W複合ナノ材料を作製した.この材料の表面構造・組成や光学特性を調べ,光触媒としての活性を評価した結果,紫外~近赤外の広帯域光を吸収し,メチレンブルー(MB)脱色反応を進行させることを見出した.また反応速度は,WO3とWの界面の割合が多い試料ほど大きいことも分かった. しかし,この脱色はMB分子の材料への吸着によっても起こるため,反応前後のMB水溶液に対して,MB分子中に含まれる硫黄を対象としたXANES測定を行った.反応前のMB水溶液のXANESスペクトルでは,MB分子に含まれるS-C結合に由来するπ*(S-C)とσ*(S-C)の吸収ピークが観察された.光触媒反応後のMB水溶液のスペクトルでは,これらのピークが減少し,σ*(S-O)のピークが明確になった.また,試料表面のS K-edge XANESスペクトルにもσ*(S-O)のピークが存在することから,MB分子の試料への吸着は,分子中の硫黄が水もしくはWO3由来の酸素と結合することで起こり,その後分子中のS-C結合が切れ,S-O結合を保ったまま脱離している事が示唆された.さらにスペクトルにSO42-に帰属されるピークが観測されていることから,MB分子中の硫黄の化学状態は最終的にSO42-になることが明らかとなった.このように,実際に光触媒反応によるMB分子の分解は進行していることを実証することができた.
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