本研究の2年目に当たる平成29年度は,初年度に構築した階層的ハイドロゲルの,がん細胞の浸潤挙動評価における有用性を追求するとともに,生体のがん細胞環境の再現を試みた。昨年度までに開発した複合型ファイバーについては,線維芽細胞増殖因子の添加によってがん細胞の浸潤が促進される一方,Rockインヒビターの添加によってがん細胞の浸潤が抑制される,という結果が得られたことから,細胞の遊走を総合的に評価できる系であることが確認された。さらに,がん細胞の浸潤に関わる遺伝子発現を定量評価し,共培養が抗がん剤の薬効に与える影響を評価することができた。これらの結果は,本手法が,既存の平面的な環境における手法とある程度の相関を示す一方で,3次元的な環境における評価を可能とする新しい手段であることを示すため,本実験系の有効性および汎用性を明らかにすることができたと考えられる。また,サンドイッチ状の階層的ハイドロゲルシートを利用した実験系については,コラーゲンゲル状に添付する培養系の確立を目指し,特に線維芽細胞のコンディション培地を用いて,がん細胞の浸潤が一定方向に制御できることを実証した。特に,がん細胞の浸潤は3次元的な環境で進行する一方で,コラーゲンゲルに添付したハイドロゲルシートを剥離することで,観察環境を平面的なものに変換することができるため,簡便に,かつ正確に3次元環境におけるがん細胞の浸潤度合いを定量化できることが示された。一方で,土台となるコラーゲンゲルの内部に対するがん細胞の浸潤挙動は限定的であったため,今後は培養系の最適化によって,生体組織をより高度に模倣したがん細胞の浸潤アッセイ系の構築へと発展させたいと考えている。
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