研究課題/領域番号 |
16K14486
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長棟 輝行 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20124373)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオテクノロジー / キメラ受容体 / 細胞内抗体スクリーニング / 細胞アレイ |
研究実績の概要 |
細胞内蛋白質を創薬標的として、その機能阻害に抗体を応用する際には、細胞内の還元的環境下で機能を発揮する「細胞内抗体」が必要となるが、既存の方法によって選択された抗体の多くは分子内のS-S結合が還元され細胞内では一般的に不安定であるため、細胞内抗体として機能する抗体をさらに選択する必要が有る。また、細胞内蛋白質は一般的に分離精製過程やプレート表面への固定化過程で変性し易く、抗原となる細胞内蛋白質の正常な立体構造を維持した状態で抗体選択を行うことには困難を伴う。そこで、本研究では次世代抗体医薬品の創製を指向し、細胞内に発現させた蛋白質抗原に対する細胞内抗体を細胞内で迅速に、かつ直接選択可能な汎用的な新規選択法の開発を目的とした。 今年度は、新規抗体選択法の原理実証のために、抗体scFvと受容体c-Mpl細胞内ドメインとを連結した抗体―受容体キメラ、小分子AP20187依存的二量体形成ドメインであるFK506結合蛋白質FKBP12の変異体F36Vと抗原蛋白質を連結した抗原キメラを構築した。AP20187依存的に抗原キメラが細胞内で二量体を形成するかどうかを確認するために、抗原キメラの下流にさらに受容体c-Kit細胞内ドメインを連結した抗原-受容体キメラも構築した。この抗原-受容体キメラ遺伝子を導入したIL-3依存性のプロB細胞株Ba/F3は、AP20187濃度依存的に細胞増殖c-Kit細胞内ドメインの二量体化に基づく細胞増殖シグナルを伝達し、IL-3非存在下でも増殖活性を示したことから、AP20187依存的に抗原キメラが細胞内で二量体を形成することが示唆された。 今後は、抗体scFvと受容体c-Mpl細胞内ドメインとの間のリンカー長を種々に変えた抗体―受容体キメラを構築し、AP20187依存的な細胞の運動性の亢進が見られる抗体―受容体キメラを選択する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
抗体scFvと受容体c-Mpl細胞内ドメインとを連結した抗体―受容体キメラおよび小分子AP20187依存的二量体形成ドメインであるFK506結合蛋白質FKBP12の変異体F36Vと抗原蛋白質を連結した抗原キメラの遺伝子をレトロウイルスベクターに組み込み、IL-3依存性Ba/F3細胞株に遺伝子導入を行い、抗生物質選択により安定発現株の取得を行った。この細胞株を光分解性BAM基板上に固定化し、IL-3非存在下、低血清条件下で数時間培養し、その後AP20187を添加して抗原キメラを二量体形成させ、細胞の運動性を評価した。しかし、細胞の運動性の亢進はほとんど見られなかった。抗原キメラの下流に受容体c-Kit細胞内ドメインを連結した抗原-受容体キメラではAP20187依存的に細胞内で二量体を形成することが示唆されたことから、細胞運動性の亢進が見られなかった理由としては、抗体―受容体キメラの抗原依存的な二量体形成が起こっていない可能性が考えられる。今後は、抗体scFvと受容体c-Mpl細胞内ドメインとの間のリンカー長を種々に変えた抗体―受容体キメラを構築し、AP20187依存的な細胞の運動性の亢進が見られる抗体―受容体キメラを選択する。
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今後の研究の推進方策 |
AP20187依存的な細胞の運動性の亢進が見られる抗体―受容体キメラを選択した後で、scFv部分にナイーブライブラリーを組み込んだ抗体―受容体キメラライブラリー構築し、これらを安定に発現するBa/F3細胞株を取得する。また、インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼのサブユニットPB1との結合領域とRNA合成活性領域を含み、安定な3本のαヘリックス構造を有するPB2のN末端領域ドメイン(アミノ酸残基1-259)を抗原とする抗原キメラを用いて、これに特異的に結合するscFvを細胞の運動性の亢進を評価指標にしてscFvのナイーブライブラリーから選択できるかどうかを検証する。
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