本研究では、精密に分子設計した低分子ゲル化剤分子前駆体が特定のガン細胞に取り込まれ、細胞内で過剰発現した酵素の作用により自己組織化し、特定のガン細胞のみを選択的に殺傷する、全く新しい薬理活性発現システムの確立を目指す。我々は、ガン細胞内でのペプチド脂質の自己組織化が細胞質の流動性を著しく低下させ、細胞機能に大きな損傷を与えることを実証してきた。そこで本研究では、ガン細胞内で亢進している酵素の基質となるペプチド脂質を合成し、この酵素の働きで、自己組織化を誘導することを考案した。現在のところ、我々が開発したペプチド脂質型低分子ゲル化剤の分子構造(Palmitoyl-Gly-Gly-Gly-His)を元に種々のペプチド脂質(低分子ゲル化剤前駆体)およびオリゴペプチドをFmoc固相合成法により合成し、この自己組織性および細胞毒性を評価している。ペプチド脂質の自己組織化は、ゲル化の目視観察、粘弾性測定で評価し、透過型電子顕微鏡観察により微視的な評価も行い、自己組織化体のナノファイバー形成の確認も行った。またヒトガン細胞由来の細胞株を用いて、in vitroの細胞毒性評価系も確立した。細胞毒性評価は、生細胞内還元酵素活性測定および生細胞内エステラーゼ活性測定により、定量的かつ視覚的に評価している。次年度は、ガン細胞(消化管間質腫瘍細胞)内で過剰発現する酵素(キナーゼ)によるこのペプチド脂質のリン酸化を検討し、ガン細胞の死滅を目指す。
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