研究課題/領域番号 |
16K14492
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
黒田 章夫 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (50205241)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸素-18安定同位体リン酸 / ラベリング / 亜リン酸 / 亜リン酸デヒドロゲナーゼ / トレーサー |
研究実績の概要 |
質量数32のリンはリンの放射性同位体で、これまで様々な分子生物学実験の中で、DNA、RNA、タンパク質(リン酸化)を標識することに用いられてきた。しかし、高エネルギーのベータ線が放出されるため、放射線取り扱い区域のみでの使用が許可されている。残念ながらリンには安定同位体がないので、窒素等の様に安定同位体による野外でのトレース実験が難しい。一方、生体中の核酸やリン脂質などに含まれるリンのほとんどは酸化数+5のリン酸態(PO4)である。従って、酸素の安定同位体(18O)を利用すれば、酸素-18安定同位体リン酸(18O-リン酸)として標識できると考えられる。しかも4カ所の酸素の置換が原理的には可能であり、様々な質量数での置換が可能である。酸素-18安定同位体は自然界にも0.2%の存在比で含まれており、生体や環境への有害な影響は全く認められていないので、生体実験や環境での利用が可能となる。 亜リン酸(H3PO3)は酸化数+3の還元型のリン酸で安価に手に入る。亜リン酸デヒドロゲナーゼによる亜リン酸の酸化には水の酸素が使われる。[18O] 水中で亜リン酸デヒドロゲナーゼによる亜リン酸の酸化を行った結果、約75%が[18O]安定同位体であるリン酸が合成できた。さらに、加熱による亜リン酸からリン酸への酸化反応に際し、[18O]水による[18O]ラベリングが可能かどうか確認した。1 Mの亜リン酸を[18O] 水で溶解してNaOHで中和後、121℃で2時間加温した。超純水で適宜希釈したサンプルを質量分析計に供し、18Oが導入されたリン酸に該当するピークの強度からその存在比を算出した。その結果、加熱により約50%の亜リン酸が酸化されてリン酸が生成されていたものの、18Oでラベルされたリン酸の割合は2%程度にとどまった。主に溶存酸素(O2)によって亜リン酸が酸化されたことが原因であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素反応で、酸素-18安定同位体リン酸を合成することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
酸素-18安定同位体リン酸の合成に際し亜リン酸デヒドロゲナーゼだけでなく、今後大腸菌由来アルカリホスファターゼ等も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
質量分析計による酸素-18安定同位体リン酸の測定系の構築に時間を要したため、測定回数が予定より少なかった。また、同位体リン酸の合成方法として、本年度行う予定であったアルカリホスファターゼの選定に時間を要したため、次年度に持ち越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度である次年度は、測定回数を増やして予定のデータ取りを行う。
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