研究課題/領域番号 |
16K14494
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
赤沼 哲史 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (10321720)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 人工繊維 / 金属含有繊維 / タンパク質間相互作用 / アミノ酸置換 / 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、人工タンパク質繊維を構築するための技術基盤の確立を目指している。過去の研究では、耐熱性8ヘリックスバンドルタンパク質sulerythrinの両端の表面に疎水性のロイシンを6個ずつ導入し、周りに負電荷アミノ酸を6個配置したsulerythrin改変体と、人工4ヘリックスバンドルタンパク質LARFHタンパク質の両端にロイシンを3個ずつ導入し、その周りに正電荷アミノ酸を3個配したLARFH改変体を合成した。両者を混合し原子間力顕微鏡で観察したところ、不均一で、枝分かれが散見されるが、繊維様構造が観察された。 平成28年度には、分岐の抑制による均一性の高い繊維の構築のため、枝分かれの要因と考えられるsulerythrinに見られる酸性アミノ酸パッチを構成する酸性アミノ酸を中性アミノ酸に置換した改変体を多数作製した。これにより、次年度以降にLARFH改変体との混合によって枝分かれが少なく均一性の高い人工繊維が得られるかの検討が期待できる。 さらに、LARFHタンパク質の代わりにホモダイマー酵素である3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素(IPMDH)を用いた動的繊維の開発にも取り組んだ。IPMDHはリガンドの結合により構造変化することが分かっており、IPMDHとスレリスリンとの間に特異的相互作用を創出することによって繊維構造を構築できれば、この繊維はリガンドの添加に応答して伸縮することが期待できる。平成28年度には、IPMDHのαへリックスの外側を向いているアミノ酸を疎水性アミノ酸に置換し、その周りの側鎖を塩基性側鎖に置換した改変体を多数作製した。そのうちのいくつかは、スレリスリン改変体との相互作用が観察された。この結果に基づき、次年度以降にIPMDH改変体とスレリスリン改変体との混合による人工タンパク質繊維の構築の検討が可能になると期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質は圧倒的な性能を持つ次世代の機能性素材と見込まれており、天然の繊維形成タンパク質を利用した研究が盛んにおこなわれている。その一方で、タンパク質繊維の用途拡大には、本来は繊維化しないタンパク質を遺伝子工学的に改変し繊維化させる技術の確立と、その技法による新しいタンパク質繊維の開発も求められている。本研究では、スレリスリンとLARFHタンパク質それぞれの分子表面を遺伝子工学的に改変し、両者を混合することによって自発的に形成される人工タンパク質繊維を構築するための技術基盤の確立を目指している。研究開始時までに、不均一で、枝分かれが散見されるが、繊維様構造の構築に成功していた。 平成28年度には、当初の予定通り、より均一で枝分かれの少ない繊維構造の構築のため、枝分かれの要因と考えられたスレリスリンに見られる酸性アミノ酸パッチを解消した改変体を多数作製した。これにより、次年度以降にLARFH改変体との混合によって枝分かれが少なく均一性の高い人工繊維が得られるかの検討が期待できる。 さらに、金属含有繊維の開発のため、金・白金と結合するLARFH改変体の詳細な解析をおこない、論文発表の準備をおこなった。この改変体は、さらにニッケルイオンとも結合することを明らかにした。この結果から、次年度以降に金属含有繊維の開発が期待できる。 加えて、LARFHの代わりに、リガンドとの結合により構造変化することが知られているIPMDHを用いた動的人工繊維開発のため、IPMDHの分子表面を遺伝子工学的に改変した多数の改変体を合成した。そのうちのいくつかはスレリスリン改変体との相互作用が観察されたため、次年度以降にIPMDH改変体とスレリスリン改変体との混合による人工タンパク質繊維の構築の検討が可能になると期待できる。 以上から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度に作製したスレリスリン改変体と既に作製済みであったLARFH改変体との間の特異的相互作用を解析する。特異的相互作用の解析にはpull downアッセイ法とFRET解析を用いる。さらに、スレリスリン改変体とLARFH改変体の混合により、自発的に枝分かれが少なく均一性が高い繊維構造の構築を検討する。繊維構造の観察は原子間力顕微鏡を用いておこなう。 平成28年度までに作製した、金・白金・ニッケルとの結合が観察されたLARFH改変体をスレリスリン改変体と混合することによって、金属含有繊維が構築できるか検討をおこなう。金属含有繊維の観察は、原子間力顕微鏡と透過型電子顕微鏡を用いておこなう。 外部刺激に応答して動くタンパク質繊維の構築のため、平成28年度までに作製したIPMDH改変体とスレリスリン改変体の特異的相互作用を定量的に解析する。この解析にはFRETを用いる。観察された解離定数が想定よりも悪かった場合は、結合面の改良によって親和性を向上させる。続いて、IPMDH改変体とスレリスリン改変体の混合により線維構造の構築を検討する。繊維構造の観察には原子間力顕微鏡と透過型電子顕微鏡を用いる。IPMDHはリガンドとの結合によって構造変化することが知られている。そこで、IPMDH-スレリスリン繊維の構築が観察されたら、繊維を含む溶液にリガンドを添加することによって線維構造の伸縮が観察できるか検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
繊維の材料となるタンパク質を精製する初期段階で、大腸菌内で大量合成したタンパク質を抽出する必要があり、これまでは、大腸菌用の溶菌試薬を用いておこなっていた。しかし、超音波発生機を用いて物理的に大腸菌を破砕できれば、実験の大幅な効率化とランニングコストの抑制が見込めるため、当初、超音波発生機の購入を予定していた。ところが、本年度になって大学内共同機器を使用できることとなったため、本物品の新たな購入を見送った。さらに、消耗品の購入額も当初の見込みよりも少なくなったため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
遺伝子工学的手法によるタンパク質表面の加工には、合成DNAおよび遺伝子操作用試薬が必要であるので、その購入のための消耗品費として使用する。表面を加工したタンパク質の調製にはタンパク質発現精製用試薬が必要であり、その購入のための消耗品費として使用する。タンパク質繊維形成の観察に必要となる試薬類を購入するためにも使用する。実験全般を通して用いることになるプラスチック器具の購入費用としても使用する。さらに、研究成果を熊本で開催される日本生物物理学会、神戸で開催されるConBio2017で発表するための、研究代表者および研究協力者の旅費としても使用する。
|