我々は、非リボソーム型ペプチド合成酵素のアデニル化ドメイン(Aドメイン)と化学的な求核置換反応をドッキングさせた革新的なアミド結合形成反応を開発し、L-アミノ酸とアミンから多様なアミノ酸アミドの合成に成功している。昨年度はこの反応機構にfatty acyl-AMP ligaseのアデニル化酵素を適用することで多様な脂肪酸アミドの合成に成功した。今年度は合成可能なアミド化合物の拡張を目指し、D-アミノ酸を含む新規ジペプチドをはじめ、芳香族カルボン酸アミドの合成法の開発を検討した。 新規アミド化合物合成法においてジペプチドを合成する場合、そのN末端側基質はAドメインの基質特異性による制限を受けるが、C末端側はキラリティに関係なく求核活性を有する任意のアミノ酸が導入可能になる。Brevibacillus parabrevis IAM1031由来tyrocidine synthetase AのAドメインは、生理基質であるL-Pheに加えて、L-Trp、L-Met、L-Tyr、L-Val、L-LeuもN末端基質として認識してアデニル化することを見出した。さらに興味深いことに、それらアミノ酸のD-体も基質となることを明らかにした。この結果から、キラリティが混在したL-L-体、D-L-体、L-D-体、D-D-体から成る多様なジペプチドの酵素的合成に初めて成功した。 Bacillus subtilis 168由来のDhbEは、安息香酸および15種類の安息香酸一置換体をアデニル化することを見出した。この芳香族カルボン酸のアデニル化反応に求核剤であるヒドロキシルアミンあるいはL-Proを作用させることで、対応する芳香族カルボン酸アミドの合成を確認し、開発した革新的なアミド結合形成反応の汎用性を実証した。
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