合成生物学では、電子回路の集積手法をヒントとして、遺伝子パーツにより構成される回路を組み上げて複合化することにより、高度な生命機能を創出することを目指している。しかしながら情報工学に基づく合理的な遺伝子回路の設計は現時点では未だ不完全である。そのため構築した細胞の表現型を確認して不十分であれば、問題点を明確化したうえで設計に立ち戻り改良する必要がある。この試行錯誤のサイクルは現状では非常に緩慢であり、とくに細胞の構築プロセスには多くの時間、費用および労力を要する。そこで、ある機能単位を有する酵母細胞を細胞融合(接合)させることにより、各酵母が有する遺伝子パーツを段階的に統合する技術基盤を確立することで、遺伝子回路構築の効率化を図ることとした。 平成29年度は、前年度に創製した酵母株の統合を進め、遺伝子回路の高度化を実施した。緑色および赤色蛍光タンパク質を発現する酵母株と、人工転写因子を発現する酵母株を接合させることで、培地成分(グルコース、ラフィノース、ガラクトース)に応じて蛍光発現特性が変化する三倍体酵母を創製した。以上の結果より、接合を用いた遺伝子パーツの統合ならびに迅速な動作確認が可能であることを実証することに成功した。また創製した三倍体酵母に対して、前年度に作製したプラスミドを導入することで、接合型を再度変換することに成功し、遺伝子パーツの統合を継続することが可能であることも併せて確認した。本研究で確立した接合技術は、一般的な実験室酵母に適用が可能であることから、酵母細胞を宿主とした合成生物学研究の推進に大きく貢献するものと期待できる。
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