研究課題/領域番号 |
16K14511
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柏木 正 大阪大学, 工学研究科, 教授 (00161026)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クローキング / 波浪制御 / メタマテリアル / 複数浮体 / 波浪エネルギー / 波漂流力 |
研究実績の概要 |
1.ある浮体の周りに小円柱群を置き、波の多重反射により散乱波を小円柱群の内側に閉じ込めてクローキングを達成するという研究がこれまで行われてきたが、浮体の運動はすべて固定されているdiffraction問題についてのみであった。中央のクロークするべき浮体が波浪によって自由動揺している場合でも、小円柱群の上下運動をダッシュポッドと復元力ばねから成る外部力学系で制御することにより、ある特定の周波数でクローキング現象を達成することが可能であることを示した。また、グリーンの公式に基づくエネルギー保存則を適用して、クローキングと波エネルギーの吸収幅(吸収効率)の関係を理論的に導き、その関係式が高次境界要素法による計算によって数値的に満足されていることを示した。
2.浅水波近似の下で、電気回路と流体運動の相関関係を使ってクローキングの実現可能性について理論的に研究し、流体に異方性ならびに不均一な流体密度や水深を仮定することにより、水波が伝播しない領域を創ることができることを示した。また、有限要素法に基づく市販ソフトCOMSOLを使って数値計算を行い、理論通りの結果となっていることを確かめた。さらに、流体の異方性を実現させるためのメタマテリアルとして微小幅の水路網を設計し、波動の性質を制御できることを理論ならびにCOMSOLによる数値実験によって立証した。
3.浅水波近似の下で、空間形状の変形を与えるある座標変換を使って、支配方程式や境界条件が元の式のままになる水深テンソルや重力加速度の条件を求め、それによって波をある特定の場所に集中させる「集波」が可能であることを数値計算によって実証した。これは波エネルギーの吸収効率を高める研究に応用できるのではないかと期待できる。水槽での実験によって、これらを確かめることが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時の計画では、クローキングを達成させる方法の一つとして、弾性膜をクロークするべき浮体の周りに置き、弾性膜の形状や剛性を最適化することによって、水波の伝播方向を変化させる「メタマテリアル」の研究も平成28年度にスタートさせる予定であったが、それについては殆どできていない。しかし、浅水波近似の下でのクローキング現象の実現可能性については、理論研究と対応する数値計算を予定通り順調に行うことができた。それを水槽実験によって立証することが来年度の課題の一つである。
一方、複数浮体による多重反射を使ったクローキングの実現に関しては、クロークするべき浮体が波浪によって自由動揺している場合でも、それを取り囲む小円柱群の上下運動を外部力学系(ダッシュポッドと復原力ばね)で制御することにより、ある特定の周波数でクローキング現象を達成することが可能であることを示した。これは予定以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
弾性膜をクロークするべき浮体の周りに置き、弾性膜の形状や剛性を最適化することによって、水波の伝播方向を変化させる「メタマテリアル」の研究に関しては、平成29年4月から日本学術振興会の外国人長期招へい研究者が研究代表者の研究室に滞在し、この弾性膜による浮体のクローキング研究に従事することになっているので、何らかの進展が図れるものと期待される。
また、水槽実験に関して浅水波中での予備実験を平成28年に前倒しで行ってみたが、現象の計測も意外と難しく、困難を極めそうである。浅水波の条件に拘らず、分散関係を有する深水波の場合に対して、弾性膜の形状・剛性の制御によるクローキング達成の見通しが理論・数値計算によって得られたならば、それに対応する水槽実験を行う予定にしている。この実験的検証は本研究課題が終了した後の平成30年以降になる可能性もあるが、引き続き行う予定である。
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