研究課題/領域番号 |
16K14524
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
菅井 裕一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (70333862)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酵母 / 残渣 / 界面張力 / ペンダントドロップ / オートクレーブ / リン脂質 / タンパク質 / 遊離脂肪酸 |
研究実績の概要 |
酵母残渣の主成分である酵母細胞膜はリン脂質やタンパク質から構成されており、これらの中には親水基と疎水基を有する両親媒性物質が含まれている。同物質の効果により、油層内で水と油の界面張力を低下させることにより石油の増進回収が期待できる。本研究では、酵母残渣からこれらの物質を溶出させて、水-油界面張力の低下効果を引き出すための最適な条件を検討した。 本研究では、ビール酵母残渣および清酒もろみ残渣を純水に添加し、オートクレーブ処理に供した後、固形分をろ過して得られたろ液と油との界面張力を測定することにより、これらの酵母残渣物の最適処理条件を検討した。試料の純水への添加量、処理温度および処理時間、酸素条件、油との共存条件、塩分濃度ならびに残渣の粒径を変化させてオートクレーブ処理を行なった。界面張力の測定にはペンダントドロップ式の界面張力計を用いた。また、それぞれ異なる条件で処理して得られた水溶液について、リン脂質、タンパク質ならびに遊離脂肪酸の濃度を、吸光光度法を用いて定量し、界面張力の低下におよぼすこれらの物質の影響を考察した。 各酵母残渣添加量の増加とともに界面張力が低下する傾向が認められ、両親媒性物質の溶出量の増加による界面張力の低下促進が示唆された。また、オートクレーブの処理温度が高く、処理時間が長いほど界面張力がより低下する傾向が認められた。さらに、油とともにオートクレーブ処理することにより、より界面張力の低下が生じるなどの結果が得られた。水溶液中のリン脂質、タンパク質および遊離脂肪酸の濃度と界面張力との関係を調べた結果、これらの物質の濃度が高いほど、界面張力が低い傾向であった。すなわち、酵母残渣から溶出したこれらの物質が界面張力の低下に寄与していることが明らかになった。 以上の結果から、酵母残渣のEORへの適用可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度には、酵母残渣の主成分であるリン脂質、タンパク質ならびに遊離脂肪酸などの両親媒性物質を溶出させる最適な処理条件を明らかにすることを目的として実験を行ない、その最適条件を明らかにすることができた。まず、水-油界面張力の低下に有効な酵母残渣としてビール酵母残渣が選定された。さらに、界面張力の低下作用に着目した評価により、その最適な添加量(50 g/L)、処理温度(180℃)、処理時間(60分)ならびに油との共処理効果を明らかにした。とりわけ油とともにオートクレーブ処理することによってさらなる界面張力の低下が生じる結果については、酵母残渣水溶液を地上施設で処理することなく油層内に圧入して、油層内で界面張力低下効果を生じさせる原位置プロセスの可能性を示唆する結果であり、本研究で提案しているEORの可能性をより高める成果である。油層内条件として、無酸素条件ならびに高塩濃度条件が挙げられるが、これらを考慮した条件下におけるオートクレーブ処理においても、界面張力低下作用に影響を及ぼすことはないことを実験的に示しており、原位置プロセスの可能性を支持している。 また、酵母残渣による界面張力低下効果が、その主成分であり、両親媒性物質であるリン脂質、タンパク質ならびに遊離脂肪酸の濃度と相関があることが示され、酵母残渣による界面張力低下メカニズムも明らかにすることができた。 研究初年度に得られた以上の成果から、次年度の室内石油増進回収実験に供する酵母残渣水溶液の調整条件を確定することができたため、本研究は当初の予定通りに順調に進展していると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究により、水-油界面張力の低下に有効な酵母残渣の種類と、その最適なオートクレーブ処理条件を明らかにすることができた。今後は、明らかになった最適条件で処理した酵母残渣水溶液を用いて室内石油増進回収実験を実施し、そのEOR効果を定量的に評価する。 室内石油増進回収実験においては、オートクレーブ処理した酵母残渣水溶液を模擬油層に圧入して石油の増進回収を図る手法に加えて、無処理の酵母残渣水溶液を高温(>120℃)、高圧(>2 atm)の模擬油層内に圧入し、模擬油層内でオートクレーブ処理を施して油との界面張力を低下させて増進回収を図る手法についても検討する。この油層内処理方法の有効性が示されれば、酵母残渣のオートクレーブ処理を地上施設で行なう必要がなくなり、操業コストの面で優位性が示される。同実験のためには、コアホルダーごと高温に保持するシステムの構築が必要であり、同システムを早急に構築する予定である。 さらに、これらの室内石油増進回収実験結果を基に、ケミカルEOR用の油層シミュレータであるUTCHEMを用いて本EORのシミュレーションモデルを構築する。これには平成28年度に実施した各種条件下で処理した酵母残渣水溶液と油の界面張力測定データに加えて、上述した室内石油増進回収実験で得られるデータから界面張力と残留油飽和率の関係や、酵母残渣水溶液と油とのエマルション形成試験などを行なって、モデルを構築する必要があるため、これらの実験を実施する予定である。これによって構築された数値シミュレーションモデルを用いて、フィールドスケールの石油増進回収シミュレーション研究を実施し、本EORの実用可能性を評価する。
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