前年度に実施した室内石油増進回収実験においては初期油量の約6%の油が酵母細胞壁水溶液の圧入によって増進回収され、酵母細胞壁の有用性が示された。同実験においては、酵母細胞壁水溶液をオートクレーブ処理した水溶液を模擬油層内に圧入した。これを実フィールでに当てはめて考えた場合、酵母細胞壁水溶液のオートクレーブ処理に必要な地上設備の建設に掛かる費用に加えて、オペレーションコストも必要となり、経済的に不利である。そこで平成29年度は、酵母細胞壁水溶液を未処理のまま高温(>120℃)の油層内に圧入し、油層内においてオートクレーブ処理がなされて石油の増進回収効果が得られるプロセスを想定した室内石油増進回収実験を実施した。コアホルダー内に作製したコアホルダー自体を120℃のサンドバス内に設置し、これに酵母細胞壁水溶液を圧入して石油増進回収を図る実験を実施した。その結果、初期油量の約10%の油が増進回収されることが示され、高温油層に対する本増進回収法が極めて有効であることが示された。 これまでの実験結果を用いて数値シミュレーションモデルを構築し、数値実験によりフィールドスケールにおける本石油増進回収技術の有用性を評価した。本石油増進回収法による主要な石油増進回収メカニズムは加熱処理された酵母細胞壁水溶液と油との界面張力の低下であり、同様のメカニズムによって石油増進回収を図る界面活性剤攻法のシミュレーションなどに用いられている油層シミュレータであるUTCHEMを本研究に用いた。同シミュレーション上では各種条件で処理した酵母細胞壁水溶液と油との界面張力と残留油飽和率の関係を定義した。100m四方の二次元油層モデルにおいて酵母細胞壁水溶液を圧入した結果、初期油量の約10%の油が増進回収され、フィールドスケールで本技術が有用であることが示された。 以上の成果を国際誌に論文発表した。
|