研究課題
本研究は,不飽和帯(地下水により満たされていない領域)でのベントナイトからなる人工バリアの変質過程についての検討を行い,より多くの廃棄体を限られた処分場面積に定置できることを示すことを目的とする。地層処分では,廃棄体の定置から処分場の閉鎖までに100年近い期間を要し,その間の通気は処分場周辺に不飽和帯を形成する。一方,発熱体であるガラス固化体の定置間隔は,地下水による冠水状態を前提にして,人工バリアの化学的変質を加速させない100℃未満になるように設計されてきた。しかし,不飽和帯により人工バリアへの地下水自体の流入が制限されれば,100℃以上でも人工バリアの変質は抑制され,廃棄体の定置間隔を小さくできる。本年度は,当初の予定通り「不飽和帯の同定および冠水期間を評価する数理モデル」の検討を行った。流動系実験装置として主にケイ砂を用いた充填層を用い、それを一度純水により飽和させた後、重力に従って排水させることにより, 初期の不飽和状態を形成させた。この状態(初期状態)から所定圧力差において連続的に模擬地下水を供給し,流入出口における流出流量を測定した。また、内部の飽和率の分布を重量法およびX線CTを用いて把握した。さらに、所定の段階においてトレーサー物質(セシウムおよびストロンチウム)を抽入し、不飽和層からの各々のトレーサー応答を得た。その結果、本実験手順により充填層内の気泡は局所的に連続的な層を形成することなく、均一に分布していることを確認した。また、トレーサー応答解析にあたり、不飽和帯における物質移行の数理モデルを構築し、見かけの収着分配係数を評価した。さらに、初期状態から冠水が始まり定常になるまでに要する時間は、本実験系の場合には、空間時間(間隙体積を流量で割った値)にほぼ近似できることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究を通じ、X線CTを利用して充填層内の気泡の空間分布をも把握することができた。この情報は、従来の重量法では得られないもので、間隙サイズレベルの気泡の存在状態を定量化する。このことにより、充填層内に連続した気相の層を形成していないことが確認できたことは、不飽和帯におけるCs等の収着分配係数が見かけ上小さく評価されることと矛盾しない。すなわち、トレーサーを含む流体が気泡を迂回する効果は、固相との接触を制限することを意味し、結果的に収着分配係数を小さく見積もることとなる。この現象は、気泡の分散状態に大きく左右される。さらに、人工バリアのベントナイト(主成分はモンモリロナイト)の変質鉱物であるイライトを用いて、処分場構築に多量に用いるセメントによって過飽和となったケイ酸の析出挙動の実験も開始でき、不飽和帯のみならず、ケイ酸の析出によってさらに流路の透水性が低下することを確認できた。
次年度も、当初の予定通り、課題1の検討を継続するとともに、「スメクタイトのイライト化の反応速度と冠水に至る速度(期間)の比較検討」(課題2)および「不飽和帯における廃棄体周囲温度の推移の評価」(課題3)を行う。課題2ではベントナイト(主成分:スメクタイト)のイライト化の反応速度を既往の研究を基に整理し、課題1によって評価された冠水に至るまでの期間においてベントナイトへのカリウムイオンの供給速度を算出することにより,上述の反応速度と比較する。また、反応速度は温度に依存することから、課題3では,廃棄体の設置間隔をパラメータにして,不飽和帯における廃棄体周囲温度の推移を評価する。また次々年度では、当初の予定を若干変更し、本年度予察的に実施した「イライトへのケイ酸の析出挙動の評価」を課題4とし、その止水性を評価する。これらの検討により不飽和帯の変質抑制機能を考慮した廃棄体間隔の算出(課題5)を行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件)
Proceedings of WM2017 (HLW, TRU, LLW/ILW, Mixed, Hazardous Wastes & Environmental Management)
巻: Paper No. 17175 ページ: 1-9
巻: Paper No. 17188 ページ: 1-10