研究課題
地層処分では,廃棄体の定置から処分場の閉鎖までに100年近い期間を要し,その間の通気による処分場周辺の不飽和帯の形成を考慮する必要がある。これまで、定置間隔は,地下水による冠水状態を前提に人工バリアの一部である緩衝材(ベントナイト)の化学的変質を加速させないように設計されてきた。しかし,不飽和帯(地下水によって満たされていない領域)により核種閉じ込め機能の変質を抑制できれば、廃棄体の定置間隔を小さくすることが可能となる。本研究ではこの不飽和帯に着眼して処分システムのコンパクト化を目指す。本年度は、当初の予定通り、課題1(飽和帯の同定および冠水期間を評価する数理モデル)の検討を継続するとともに、課題2(スメクタイトのイライト化の反応速度と冠水に至る速度(期間)の比較検討)および課題3(不飽和帯における廃棄体周囲温度の推移の評価)を行った。課題1では、昨年度の1次元的カラムの知見を発展させ、平行平板充填層による2次元的な不飽和の形成とその冠水に至る経緯を検討した。その結果、本実験系では、飽和率0.9(完全に飽和した場合1)になるまでの時間は、間隙体積を不飽和状態の液相の体積流量で割った値(空間時間)によって近似でき、その際のCsの遅延効果は1次元的なカラムによる評価とほぼ同等であることが明らかになった。課題2ではベントナイト(主成分:スメクタイト)のイライト化の反応速度を既往の研究を基に整理し、課題1によって評価された冠水に至るまでの期間においてベントナイトへのカリウムイオンの供給速度を算出したところ、イライト化の反応速度が律速することが確認された。さらに、課題3では,課題1の結果を受け、緩衝材は飽和するものの、埋め戻し領域がアクセス坑道の通気により不飽和帯(間隙率20%が空気、5m)の坑道を形成すると仮定すると、緩衝材の最高到達温度が、飽和帯を仮定した場合に比較して10℃程度上昇することがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究によるカラム(1次元的流動場)および平行平板充填層(局所的に流入流出口を持つ2次元的流動場)による実験を通じ、不飽和帯での流量が、飽和帯の流量に比較して低くなることにより、人工バリアへのカリウムへの供給は低下することが明らかになった。また、そのような不飽和帯では、完全に飽和しないものの熱移動はほぼ冠水環境で近似でき、厳密な気相の分布を考慮しなくとも温度場をほぼ評価できることが本研究を通じて確認された。このことは、連成問題となる本課題の簡便化に寄与する。さらに、昨年度に予察的に行った「イライトへのケイ酸の析出挙動の評価」を、本年度は温度をパラメータにして行ったところ、温度が高くなるにつれて、イライトへのケイ酸の析出速度が大きくなる傾向を示した。イライトはベントナイトの変質鉱物であり、膨潤性を喪失するが、セメント利用によるケイ酸の再分配により、不飽和帯による地下水流量をさらに減少させる。本研究により、コンパクト地層処分システムの創成には、これらの事項を包括的に評価する必要性が明らかになり、これらの知見を得たことは、当初の計画以上に進展している点と言える。
次年度は、本研究の最終年度となる。当初の予定通り、前述の課題1、課題2および課題3の検討を継続するとともに、昨年度の研究実施状況報告書「今後の研究の推進方策等」において示したように、これまで予察的に実施してきた「イライトへのケイ酸の析出挙動の評価」を課題4とし、析出による地下水の止水性を評価する。これらの検討により不飽和帯の変質抑制機能を考慮した廃棄体間隔の算出(課題5)を行う。そこでは、これまでの知見を活かし、不飽和帯による地下水の流量の低下、その物質移動(遅延効果)や熱移動に及ぼす影響、さらに、ベントナイトの変質に伴う間隙へのケイ酸の再分配を評価して処分場をコンパクト化できることを示していく予定である。ここでケイ酸の再分配とは、冠水環境になる処分場建設に必要となる多量のセメントによって、近傍の地下水が高いpHとなり、岩石の一部からケイ酸を溶解させた後、その下流域において周囲地下水(pH8程度)と混合し、pHを減少させるとともに過飽和となったケイ酸を再び地下水の流路表面に析出させる現象である。なお、ケイ酸はpH9.5以上となると溶解度が急激に上昇する。ベントナイトの変質鉱物であるイライトへの析出が十分に確認できれば、析出による止水効果による核種閉じ込め性をも考慮して、処分場のコンパクト化を図ることが可能となる。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Proceedings of WM2018 (HLW, TRU, LLW/ILW, Mixed, Hazardous Wastes & Environmental Management)
巻: Paper No.18114 ページ: 1-8
http://db.tohoku.ac.jp/whois/detail/a0f21740a16e2fd1eeab1f9ef0b882de.html