研究課題/領域番号 |
16K14535
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
武田 哲明 山梨大学, 総合研究部, 教授 (30370422)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自然循環流 / 分子拡散 / 安定成層 / 自然対流 / 超高温ガス炉 / 空気浸入 |
研究実績の概要 |
今年度は高温実験用の実験装置の製作と破断口位置及び炉内構造物による現象の考察を行った.まず,二重円筒容器内に発熱部を有する実験装置を製作した.各所に熱電対を取り付け,濃度計,差圧計,流速計用測定孔を設けた.実験では,壁温度,ガス温度は熱電対で,流速は熱線風速計で測定し,超音波濃度計により混合気体の濃度を測定して,密度変化を求める.一方,現象の考察では,実在する原子炉である高温工学試験研究炉に代表されるような原子炉下部に一次冷却系配管が位置する場合に,この配管が破断すると一般的には破断口上部の炉内には密度の小さい気体が,破断口下部には密度の大きい空気/ヘリウムの混合気体が存在するため,炉内外が均圧後,直ちに混合気体が浸入する可能性は低いとされている.そこで,超高温ガス炉の原子炉測部に一次冷却系配管が位置する場合について,減圧事故時における炉内への空気浸入挙動をこれまでの研究から気体の混合現象と自然循環流の発生時間を考察した.その結果,1.逆U字型の円形流路や鉛直な矩形流路を用いた2成分気体の混合過程は,3次元熱流体数値解析コードにより,定性的には現象を再現できること,2.鉛直矩形流路の場合には,自然循環流の発生時間は鉛直壁の温度差が比較的小さい場合は,局所的な自然対流よりも2成分気体の拡散係数による分子拡散の影響を受けること,3.一方,鉛直壁の温度差が大きくなると,自然循環流の発生時間は局所的な自然対流の影響も受けるようになること,4.この局所的な自然対流は例えば,高温ガス炉の圧力容器と固定反射体との環状流路部に発生する局所的な自然循環流の発生が,空気の自然循環流の発生時間を短くすることを意味すること,5.空気の自然循環流が発生した後でも,ヘリウムガス注入法により空気浸入を防止することが可能である,ことなどが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超高温ガス炉減圧事故時の空気浸入現象を再現する高温実験装置の製作が予定通り終了し,実験が実施できる状況になったことで,ヘリウム/空気の2成分気体混合実験を開始する準備が整った.さらに,実験装置の設計・製作と並行して,加熱,冷却壁に対する種々の温度条件に応じて,起こりうる気体混合過程をこれまでに関連する実験結果と3次元数値解析結果から比較検討を行った.この検討により,今回製作した実験装置のように,比較的実際の炉内構造に近い状況での2成分気体混合過程,及び引き続き発生すると考えられる空気の自然循環流発生条件を確認することができた.この事前検討により,本実験装置に対して,起こりうる現象を予測,並びに非定常実験に必要な実験時間,温度,圧力,流速等の計測点情報,等を把握することができた.これにより,実験結果の考察に必要な実験値の精度,計測点数を調べ,より精度の高い実験が可能となった.これらは,今後の3次元数値解析の結果と比較する上で重要な点である.また,空気浸入流速の可視化やヘリウム/空気のモル分率の計測についても,検討を進め,来年度以降への実験に対する準備が整った.以上のことから,概ね研究は予定通りに進められており,解析検討も含めた研究の進捗状況に問題はない.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,実験装置の製作と破断口位置及び炉内構造物による現象の考察を行った.来年度以降は,ヘリウム/空気の場合の空気浸入実験を開始するとともに研究室所有の3次元熱流体数値解析コードにより,実験装置のモデル化を開始する.実験においては,基本現象を把握するため,比較的低温度領域での実験から開始するが,初期の実験において,装置内の気体温度分布,破断口付近の流速値を求め,発生事象を特定する.この時,空気浸入流量を求めるための可視化方法について,検討を行う.一方,炉心を模擬した加熱ヒータ付近の温度計測のため,装置上蓋を改造して,温度計測孔を増設し,熱電対を挿入して,模擬炉心部の温度計測点を追加する.これら温度計測点位置の情報から,3次元数値解析により求める気体温度計測点位置を決定し,実験結果と解析結果を比較することで,現象の再現性を確認する.さらに,空気を充てんして模擬炉心ヒータを加熱し,自然循環流を発生させた状態で上蓋からヘリウムガスを微少量注入して,空気の自然循環流を制御する実験を開始する.模擬炉心部温度とヘリウムガス注入量,及びヘリウムガス注入位置をパラメータとして自然循環流発生条件を定式化することで,自然循環流の制御法を明らかにする.第4世代原子炉の一つである超高温ガス炉として設計されているGTHTR-300Cのような流路構成における空気浸入挙動を予測するため,解析モデルを改良し,数値解析により,減圧事故時の空気浸入量や空気の自然循環流の発生時間を求め,ここで得られた自然循環流制御法により,空気浸入防止法を検討する.
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