研究実績の概要 |
社会全体でのエネルギー消費削減には高温プロセスにエネルギーを投入し、その排熱をプロセス稼働温度に応じて順次低温側で利用するエネルギーのカスケード利用が有用である。エネルギーカスケード利用には、プロセス間エネルギーの輸送や蓄熱が必要である。本研究では、相変化物質(Phase Change Material, PCM) 溶融時の潜熱を利用して高密度に熱貯蔵する「潜熱蓄熱法」に着目した。従来の潜熱蓄熱法のうち間接接触熱交換式の場合は、放熱時に伝熱面にPCMの凝固相が生成し、伝熱速度が著しく低下することが知られている。この凝固相はわずか 1 mmの厚みでも総括伝熱係数が 1/3 になるほどの大きな伝熱抵抗を示す。潜熱蓄熱システム実用化には蓄・放熱速度の高速化が必要で、本研究では「PCM凝固層剥ぎ取り型高速熱交換潜熱蓄熱槽」を提案した。基本構造は管形間接熱交換器で、伝熱管が回転し、伝熱管に隣接する固定羽根が存在する点が特徴である。この機構により放熱時に伝熱管表面に生成したPCM凝固層を機械的に剥ぎ取り伝熱面を更新できるため、高い放熱速度を維持可能である。本研究ではPCMに1 kgの酢酸ナトリウム三水和物を搭載した実験室規模の試験装置を開発し、放熱時の凝固相剥ぎ取り現象の観察、および放熱速度、蓄熱時の溶融現象および蓄熱速度に及ぼす伝熱管回転の効果を検討した。その結果、従来の間接式熱交換式に相当する無回転条件の放熱速度と比較し約100倍の放熱速度を有し、さらにその放熱速度が総蓄熱量の約80%を放出するまで持続することを明らかにした。また、蓄熱時はオイルなどの第2層の存在が不可欠であることを明らかにした。放熱/蓄熱速度におよぼす伝熱管回転数、固定羽根枚数の関係を明らかにした。
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