研究課題/領域番号 |
16K14549
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
田中 耕太郎 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (60278215)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 太陽光照明 / 太陽光採光 / エレクトロウエッティング / EWOD |
研究実績の概要 |
エレクトロウエッティング(以下EWOD)効果を用いて小セル内の水・油等の界面形状を変形させ,入射方向の変化する太陽光を追尾して固定光ファイバーに導入する太陽光採光器が本研究の開発課題である.基本的な特性検討を研究目的として,界面形状と光透過集光特性の計算評価を実施した.簡易に効率よく太陽光を光ファイバーに導く太陽採光器が可能となれば,太陽光照明として幅広い応用が期待できる. EWOD現象には,基本的に三角プリズムのように全体的に入射光角度を曲げる効果と凸レンズのように平行入射を集光する2つの効果が期待できる.太陽追尾には前者,入射光密度を上げて細いファイバーに導入するためには後者が効果的である.本研究では2つの効果を複合した検討を実施した.解析手法として,到達光密度を,光ファイバー入射許容角内のファイバーへの入射光密度/容器開口部への太陽入射光密度,と定義し,入射角に対する解析計算結果を得た.光ファイバー入射許容角は60°,集光比(=開口面積/光ファイバー入射面積)は標準値を25とし,6~25まで変化させてその効果を検討した.EWOD液体は,水,シリコンオイル(KF-96-50cs),イオン液体(IL16)を選定し,1~3層を検討した. 解析結果より,集光比25の際は1~3層のいずれも入射角30°程度までの到達光密度はほぼ一定となり,1~3層に対してそれぞれ1.5, 1.3, 2.3であった.また解析結果よりEWOD効果により全体的に入射光を曲げる効果を優先すると性能向上の可能性のあることが導かれた.そのため容器形状を四角錐台とする検討を行った.その結果,入射角度は11°までに狭められるが,3層の際の到達光密度は最大値13.5が得られ,性能向上の特性が得られた.本研究の結果は解析的に限られているが,EWOD効果を用いる新たな太陽光採光装置の可能性を明らかとする成果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施の初期段階は,水だけの単層と水・油の2層構造を目標として光透過特性の解析を行った.しかし,得られた到達光密度は最大1.5程度と限られた値であった.性能向上方法として,イオン液体を加えた3層構造の導入により3程度まで改善され,矩形容器から四角錐台形状の導入により13まで改善された.その導入項目の検討過程において,改善のためのパラメータが多く,研究計画の遅れの原因となった.セルの縦横高さ方向それぞれの比,集光面積比,EWOD液体の種類と組み合わせ,容器内に封入する各液体の体積比率,隣のセルの影響等が主に検討を行ったパラメータである.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の解析結果には,光経路における光吸収・反射・散乱による減衰項を含んでいない.その効果を含めた解析結果は,実際の容器形状を設計する際に必要な情報である.今後の解決が最初に必要な課題といえる.本研究課題内で,矩形容器,四角錐台形状内のEWOD効果による界面形状変化の実験を実施し,界面形状に関する成果は得たが,実際に光ファイバーと組み合わせた光透過の測定には至らなかった.今後の課題である.また傾斜設置のために密度差の小さいEWOD液体の選定も今後の遂行に必要な開発項目である. 本研究で提案したEWOD効果を用いた太陽光採光器の今後の発展性として,軸長が断面が楕円のように異なる形状の有効性が指摘できる.太陽光入射角の変化は東西方向に大きく,水平天頂方向には小さいためである.本研究の対照的な構造の容器形状より高性能となることが期待できる.装置構造のシンプル化と性能向上を両立させる検討項目はパラメータが多く困難の多い課題であるが,本研究で得た以上の性能値が得られる余地は多く残されている.また,EWOD液体として特にイオン液体の可能性のある液体は多く,誘電率,屈折率,密度,光に対する安定性,価格などから総合的により高性能のものを選択する余地は多く残されている.本研究課題は継続して可能性を検討する対象の多い課題といえる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度が最終年度であったが,解析計算に新たなパラメータを加えて検討したことを主な理由として,当初の研究計画よりやや遅れが生じた.次年度使用額は,計画に遅れた計算の実施(ソフト使用料等),解析結果のまとめ,ならびにその成果の学会論文発表費用に使用する計画である.
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