研究課題/領域番号 |
16K14551
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研究機関 | 都城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
赤木 洋二 都城工業高等専門学校, 電気情報工学科, 准教授 (10321530)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 化合物太陽電池 / 硫化物 / 銀錫硫化物 |
研究実績の概要 |
将来の大規模量産を賄いうる新たな安全かつレアメタルフリー化合物太陽電池材料の探索研究が必須となっており、本研究では、新規Ag系化合物太陽電池材料として期待されるAg8SnS6結晶薄膜の作製法の確立とAg8SnS6太陽電池の高効率化を実現するための技術開発を目指している。今年度は、特に薄膜作製法の確立と材料の光学的性質を明らかにすることを目指し、真空蒸着法により成膜したglass/Ag/Sn、glass/Ag/SnSプリカーサ膜を、H2S 雰囲気中で300~500℃の温度で熱処理を行った薄膜より、以下の成果を得た。ここで、出発原料のAg:Snは8:1もしくは2:1のモル比で秤量し、AgおよびSnもしくはSnSを蒸着する際の基盤温度を室温もしくは300℃として成膜を行った。 1. glass/Ag/Sn、glass/Ag/SnSプリカーサ膜を熱処理することで、Ag8SnS6結晶に帰属したピークが確認できた。 2. 加熱した基板上にプリカーサ膜を成膜すると、加熱しない場合に比べて、熱処理後に薄膜中のボイドが減少していることを明らかにした。 3. Sn単体を原料として成膜する場合(glass/Ag/Sn)よりもSnSを原料として成膜した場合(glass/Ag/SnS)の方が、熱処理後に薄膜中のボイドが減少していることを明らかにした。 4. 光学的特性である透過率と反射率から光吸収係数を計算すると104cm-1以上の値を持ち、またバンドギャップを見積もると、約1.3eVの値が得られ、太陽電池材料として有望な物性を有していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、新規Ag系化合物太陽電池として期待されるAg8SnS6において、結晶薄膜の作製法の確立と太陽電池の高効率化を実現するための技術開発を目指している。 真空蒸着法を用いてAg とSnもしくはSnSを積層したプリカーサ膜を成膜し、硫化水素雰囲気中で熱処理することで、高品質な薄膜を得る作製条件の検討および材料の光学的性質の評価を行った。その結果、加熱した基板上にプリカーサ膜を成膜すると、加熱しない場合に比べて、熱処理後に薄膜中のボイドが減少していることを明らかにした。また、Sn単体を原料として成膜したglass/Ag/Snプリカーサ膜を用いた場合よりも、SnSを原料として成膜したglass/Ag/SnSプリカーサ膜を用いた場合の方が、熱処理後に薄膜中のボイドが減少していることを明らかにした。さらに、太陽電池材料としてのポテンシャルを確認するため、これらの薄膜の透過率と反射率から光吸収係数を計算すると104cm-1以上の値を持ち、またバンドギャップを見積もると、約1.3eVの値が得られ、太陽電池用材料として極めて優秀な光学的性質を有していることが分かった。しかしながら、X線回折装置による結晶構造解析において、熱処理の温度によっては、帰属できない回折ピークも確認されており、これらの解析を進めていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
太陽電池のデバイス化に向け、当初の予定通り、Ag/Sn比を変化させたときのAg8SnS6薄膜の作製と評価を行う。さらに、薄膜の伝導型制御や高品質化を期待してSbもしくはBi添加薄膜の作製と評価を行う。また、これまでの作製した薄膜において、熱処理の温度によっては、X線回折法による帰属できない回折ピークも存在していた。それをラマン分光等を用いて、薄膜中の異相の存在の有無について明らかにし、単相のAg8SnS6薄膜を作製するための成膜条件・熱処理条件の検討を行う。 さらにAg8SnS6薄膜の熱処理条件を変化させて太陽電池デバイスを作製し、光起電力の熱処理依存性について明らかにすることを目指す。
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