研究実績の概要 |
本研究では、新規Ag系化合物太陽電池材料として期待されるAg2SnS3やAg8SnS6結晶薄膜の作製法の確立と、これらの太陽電池の高効率化を実現するための技術開発を目指している。これまでに原料としてSnよりもSnSを利用することや基盤を加熱しながら成膜すること、さらにSbを添加する事が高品質な薄膜を作成する上で効果的であることを明らかにしてきた。 本年度はAg8SnS6および(Cu,Ag)2SnS3薄膜の高品質化およびそのデバイス化を目的に行った。Ag8SnS6薄膜は、蒸着時の出発原料のAg/Sn=8~9として成膜を行った。成膜後、H2S 雰囲気中で160~500℃、1時間の熱処理を行い、薄膜を作製した。また、(Cu,Ag)2SnS3薄膜は、出発原料におけるAgの量をAg/(Ag+Cu)=0.32まで変化させて薄膜の作成を試みた。 Ag:Sn比は8.25~8.5:1とすることで、これまで出現していた異相のピークもほぼ消滅し、品質の良いAg8SnS6結晶を得ることができた。また、Ag:Sn比は8:1であっても、熱処理を、低温(160℃)+高温(400~500℃)で行う二段階にした場合、異相の回折ピークの減少とボイドの大幅な減少が見られ、高品質な薄膜を得ることができた。これまでの結果から、Ag/Sn比や熱処理の条件、Sbの添加が高品質なAg8SnS6薄膜を得るために重要なファクターであることがわかった。また (Cu,Ag)2SnS3薄膜はAgが16%まで固溶することが新たに分かり、この材料で太陽電池を作成すると、Agを8%固溶した太陽電池において3.6%の効率を得ることができた。昨年、Agを5%固溶させた太陽電池における4.07%には及ばなかったものの、Agの固溶量を増加させたことに起因した開放電圧の上昇(244mV→284mV)が確認でき、さらなる高効率化が期待できる結果を得た。
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