本研究は、CRISPR/Cas9系を用いてマウス小脳全域のプルキンエ細胞特異的に特定の遺伝子をノックアウトし、登上線維のシナプス刈り込みに関わる分子をスクリーニングする系の確立を目的とした。本年度は、子宮内エレクトロポレーションによりマウス小脳全域のプルキンエ細胞にCRISPR/Cas9 系を導入したマウスでの電気生理学的解析を試みた。胎生11日および12日齢の小脳両側に対して2点電極または3点電極を用いた子宮内エレクトロポレーションによって遺伝子導入を行った。ゲノム編集によるノックアウト効率を高めるため1遺伝子に対して3箇所をガイドRNAのターゲットとして、従来のSpCas9またはオフターゲットを抑えるためにeSpCas9を発現するプラスミドベクターを導入した。登上線維シナプスの刈り込みに必要とされるP/Q型電位依存性カルシウムチャネルをターゲットとして、小脳スライス標本を用いて電気生理学的に登上線維のシナプス刈り込みへの影響を調べた。しかし、SpCas9もeSpCas9も共に、RNA干渉と比較しても、ノックアウトマウスで見られるほどのシナプス異常は見られなかった。小脳虫部を含めた両側の広範囲のプルキンエ細胞特異的にCRISPR/Cas9を導入することに成功したが、今回試験した条件ではゲノム編集の効率が低い可能性が示唆された。今後はさらなる条件検討を行うとともに、ゲノム編集を伴わないCRISPR干渉法に切り替えることも検討する。
|