まずはすべての実験装置を揃え、in vivoマルチユニット記録法が確立することを目指した。本研究の終了期までには実験機器のセットアップ検討が終了し、方法論が確立できたと考えている。その後、従来の光遺伝学的手法にならい、チャネルロドプシン2を発現するウイルスベクターAAV5-CaMKII-ChR2をラットの背側海馬に注入した。ラットでの光遺伝学的ツールの実績は少ないが、本研究では発現を確認することができた。このように光に応答する脳領域に光ファイバーを介して光を照射し、その照射領域から直接、電気生理信号を得るための電極の開発を試みた。具体的には、マルチユニット計測のためのテトロード電極の先端と、光ファイバーの先端がほぼ同位置になるように両部品を接着させた。本ツールの作動状況を確認するため、光感受性分子を発現させた動物ではコストが大きすぎるため、まずは簡易的な動物モデルとして、光感受性分子を血管内に注入し、検討を行った。この条件下では脳血管へ光感受性分子ローズベンガルを注入すると、その部位の脳血管が閉塞し、神経活動が著しく変動する。この性質を利用して、光照射が確実に行えており、また脳活動に由来する電気生理信号が変動することを見出した。本研究成果の一部は、脳虚血における新しい生理メカニズムとしてNeuroscience Research誌に掲載された。また、これまでのところ、16本のテトロード電極と光ファイバーの併用法を確立している。電極を3週間程度かけて徐々に海馬の錐体細胞層まで到達させ、ChR2を発現した領域に光照射を行ったところ、光刺激のタイミングにロックした神経応答が見られた。ここで応答しているユニット(細胞)は、ChR2を発現した細胞であると推測される。ここまでの技術確立で、ようやく世界水準の生理学計測法に到達したと考えている。
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