研究課題/領域番号 |
16K14556
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
長崎 弘 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (30420384)
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研究分担者 |
小谷 侑 藤田保健衛生大学, 医学部, 助教 (60644622)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 胚性幹細胞 / 神経新生 |
研究実績の概要 |
近年、間脳視床下部領域における神経新生現象が見出され、摂食行動やエネルギー代謝を調節することが示唆されている。本研究では、マウスES細胞から視床下部組織を分化誘導する培養系を用いて、in vitroで神経新生現象を再現し、その生理的な調節因子の解明を目指す。 計画初年度である本年度は、まず神経新生現象を再現しうる分化培養系の検討を行った。マウスES細胞を用いた視床下部分化誘導では、約1ヶ月で胎生期および新生児期の神経発生が完了することから、1ヶ月以上の長期培養において神経新生のソースである神経幹細胞が維持される必要がある。そこで視床下部神経幹細胞のマーカーであるRax遺伝子にGFPをノックインしたES細胞株(Rax::GFP株)を用いて長期分化培養を行ったところ、50日間の培養後でもGFP陽性細胞が維持されることを確認した。さらに、ソニックヘッジホッグシグナルを活性化することで腹側視床下部を選択的に誘導すると、より多くのGFP陽性細胞が維持されることを確認した。成熟視床下部の神経幹細胞は腹側領域に多く存在し、この領域で神経新生は活発に生じることから、分化培養系においてもこの領域特異性を再現できたと考えられる。 Rax::GFPの発現は幹細胞期に一過性であることから、新生細胞を永久的に標識するために、Rosa26遺伝子座にloxP-stop codon-loxP-tdTomato配列をノックインしたES細胞株を新たに作製した。現在、このES細胞由来の神経幹細胞にCreリコンビナーゼを時期特異的に発現させることで、新生細胞のみを蛍光標識する準備を進めている。これにより新生細胞の定量評価や機能解析が可能となる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画ではEdUなどの細胞分裂標識試薬を用いて、免疫組織化学的な手法により新生した神経幹細胞および神経細胞を定量する予定であった。しかしながらRax::GFP株を用いた解析から、分化培養したES細胞塊において神経幹細胞はクラスターを形成し不均一に分布していることや、細胞塊によっても神経幹細胞の存在率はまちまちであることが分かり、組織学的な解析手法のみでは新生細胞の定量化が困難であると予想された。そこで次年度の研究計画を前倒しし、新生細胞のみを蛍光標識することで、フローサイトメトリーによる解析が可能なシステムの構築を目指した。具体的には、(1)Rosa26遺伝子座へのloxP-stop codon-loxP-tdTomato配列の挿入、(2)Rax遺伝子座へのCreERT2配列の挿入を行ったダブルノックインES細胞株の作製を計画した。現在までに(1)のステップは完了しており、Creリコンビナーゼ依存的にtdTomatoを発現することや、細胞増殖能および分化能に問題が無いことを確認している。しかしながら陽性クローンを得るのに時間を要したことから、(2)のステップは未だ継続中であり、進捗状況としてはやや遅れていると判定した。
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今後の研究の推進方策 |
前述の方法に基づき、新生細胞のみを蛍光標識できるES細胞株を作製する。フローサイトメトリー法により新生細胞を定量化することで、種々の増殖因子や栄養シグナル分子(グルコース、レプチン、インスリンなど)が神経新生に及ぼす影響を定量的に評価する。また免疫組織化学的解析により、新生した神経細胞における視床下部ペプチド類の発現を検討することで、新生細胞の分化指向性を評価する。さらに新生細胞の蛍光標識によりライブセル解析が可能になることから、本年度予算で購入した細胞潅流システムを用いて細胞内カルシウムイメージングを行い、栄養シグナル分子への反応性などの機能的成熟度を評価する。
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